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――八月十日。結局私は、あれから吉川さんに何も返信できていなかった。
もうすぐ夕方だ。私から何も返ってこないのだから、きっと吉川さんは他の友達と行くことにしたはず。
居間のテレビをぼーっとしながら見ていると、ふとあの時の吉川さんの言葉が頭の中に響いた。
『待っててくれてありがとう』
私がしたことは大したことではなかったのに、吉川さんは何度も感謝の言葉を口にした。大袈裟すぎる、そう思ってあの時の私は戸惑うことしかできなかった。
でも――何故かあの時の、吉川さんから心からの感謝を、言葉からも表情からも受け取った瞬間はずっと私の心に残っていた。
「お母さん、ちょっと出かけてくる」
「えっ、ちょっと、友架?」
花火大会の会場まで、全力で自転車をこいだ。
返事を返していないくせに、こんなことを思うのはおかしいのかもしれない。
でも、何故かそんな気がした――吉川さんが、私のことを待ってくれているような。
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