2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
急いで駐輪場に自転車を駐めると、入り口付近に浴衣姿でうちわを持っている吉川さんが一人ぽつんと立っていた。
本当に、なんで――なんで吉川さんが一人でいるの。私なんか放っといて、他に友達いるんだからみんなと行けばもっと楽しいだろうに。
「あっ、朝井さん!」
私が駆け寄ると、吉川さんはすぐに気づいて笑顔になる。
「良かったぁ……もうすぐ花火始まるよ」
ほっと息をつく吉川さんに、私はもう一歩近づくのを躊躇って疑問を投げかける。
「吉川さん……その、返事返せなくてごめん。でも、なんで私なんか誘ったの?」
「なんでって……私が朝井さんと仲良くなりたいからだよ」
その柔らかい表情で、からかいでも何でもなく本心から言っているのが分かった。
「でも、吉川さんには他にもたくさん友達が――」
「さっきも言ったけど、私朝井さんとずっと仲良くなりたかったの。でも、学校ではずっと朝井さん話しかけないでほしいって感じだったから……勇気出して誘ってみたんだ。朝井さんが来てくれたら、私と仲良くなってもいいと少しは思ってくれてるって分かるから」
「そんな……私はそんな風に思ってもらえるような人間じゃないよ」
ずっと人との繋がりが面倒だからって避けてきた、そんな人間なんだよ。
吉川さんの優しい気持ちに、こんな私は相応しくない。
「朝井さんは自分でも分かってないのかもだけど、優しい人だよ。大勢の人に分かりやすい優しさもあるけど、みんなが見ていないところで、相手にしか分からない優しさもある。私は、それがずっと心に残ってたよ」
「でも――」
私が尚も不毛なことを言おうとすると、吉川さんは私の手をとった。
「ほら、せっかくの花火なんだから少しでも近くで見に行こう」
最初のコメントを投稿しよう!