花火、咲く笑顔

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 二人で、花火を見ようと集まった人混みまで駆け出す。一番見えやすい場所は、さすがにもう埋まっていて入り込める場所なんてなかった。  私達は遠いけれど人気の少ないところを選んで、二人並んで立つ。  ほどなくして、ドンッと破裂する音。それと同時に、暗闇に明るい光の花が咲いた。一番最初に打ち上げられた大きな花火を皮切りに、どんどん色とりどりの花が夜の空を明るく照らしていく。  一面の黒が、華々しい色に染まった。 「わあ、すごい!花火きれいだね、朝井さん!」  いつも穏やかな吉川さんが、はしゃいだ声を出す。  あの日以来、ずっと一人だったから忘れていた。誰かと同じ景色を見て、同じように感動できるって……こんなに嬉しいことなんだ。  吉川さんと一緒に眺める花火の夜空は、一人でテレビ画面を通して見ていたものよりも遥かに綺麗で感動的だった。  次々と光に照らされる夜空を見ながら、目頭が熱くなり、頬に涙が伝う。吉川さんはそんな私に気づくと、驚いてすぐに「どうしたの?」と心配してくれる。私はすぐに袖で涙を拭き取ると、自然と吉川さんに笑顔を向けていた。 「花火、本当に綺麗だね」 「うん!」  吉川さんも、笑顔になる。それだけで心が温かくなった。  もっと、吉川さんと仲良くなりたい。  そう思うと同時に、自然と言葉が溢れ出していた。 「吉川さん、私と友達になってくれませんか……?」  不安のせいで段々声が小さくなる。そんな私を包み込むような優しい声で吉川さんは言った。 「私達もう友達だよ、友架(ともか)ちゃん」  その時、一際大きな音が聞こえてきて二人同時に空を見上げる。夜空に大輪の花火がいくつも咲いて、まるで昼間のように明るくなった。破裂音が全身に響く。  花火を見ていた全員が一斉に拍手した。もちろん私も、吉川さんも。  みんなが同じように空を見上げて、笑顔になっていた。 「吉川さん、ありがとう……」  また涙がこぼれそうになるのをこらえて、吉川さんに聞こえるか聞こえない程度の声でつぶやく。  この日見た景色は全部、私にとって一生忘れられない思い出となった。
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