IBAI

5/6
38人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
 紫雲チームのオフィスは、中央に5人掛けの大きなテーブルと、隅には座りごこちのよさそうな3人掛けのソファーが2つ、1人掛けのソファーが4つ置かれている。  幼さの残る端正な面立ちに、不安そうな表情がいかにも頼りなさげな榎木(えのき)犀星(さいせい)は、1人掛けのソファーから立ち上がるとルーフに出て、テレグラフィーで会話をしている朱鷺田(ときた)白鶴(はっかく)を呼びに行った。  白鶴はいつも冷静沈着で、情に厚いタイプではないが、婚約者のことだけは大切に思っていた。  会話は聞こえてこないが、何やら楽しそうに話している白鶴を英俊は見た。「あいつはまた婚約者といちゃついてるのか?」  3人掛けのソファーに横になっていたフランクは、大きな欠伸をしながら椅子に座り、うんざりした様子で大袈裟に目を回して見せた。「もう30分近く喋ってる。年末年始の休暇を雪山のコテージで過ごすんだそうだ、いつになく甘い声でその相談をしてるみたいだ」 「婚約者っていっても子供の頃に親が決めたんだろう?よくいつまでも仲良しでいられるな」言い寄ってくる美人には目もくれず、1人の人を思い続けている白鶴のことを、誰かと長く恋愛関係を続けたことが無い英俊は、感心していた。蘭が英俊に冷たい視線を向けた。「英俊は人を愛したことが無いから分からないんだよ」 「愛か――」英俊は今まで恋をしたことはあったが、そこまで強く恋焦がれる思いをしたことが無かった。愛すればいつまでも仲良しでいられるものなのかと首を捻った。
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!