南東へ

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 英俊は犀星を連れてきたことを、早速後悔した。フランクの言う通り、助っ人を頼んでいれば、今頃は抜け出せていたはずだ。やはり、犀星には荷が重すぎたようだと思った。 「なあ、頼むよ、早く降ろしてくれなきゃ俺の頭が馬鹿になる」宙吊りのフランクは懇願した。  白鶴がひそひそと言った。「フランクがあれ以上馬鹿になったら困る」 「だけどいったいどうやって抜け出す?蛍雪のところの妖術使いを呼ぶか?」蘭が言った。  妖術使いが気を失うなんて大失態だ。それを他の妖術使いに知られたら、犀星は立ち直れないかもしれないなと英俊は思った。最悪、妖術使いを辞めてしまうかもしれない。 「犀星には気の毒だが、そうするしかないだろうな、これで、また犀星は笑い者になるぞ」  英俊がテレグラフィーで、蛍雪に連絡をとろうとした時、頭上から誰かが声をかけてきた。 「おーい、君たち大丈夫か?すぐに術を解いてやるから動くなよ」男はパチンと指を鳴らした。  英俊たちの足に絡みついていた蔦が、するすると離れてあっという間に森の中に消えていった。  宙づりになっていたフランクは、地面にしたたかに尻を打ち付けた。 「痛!ケツ打った!俺のかわいいケツが……ああ痛い」情けない声で喚きながら、フランクは英俊たちのところへ戻ってきた。  英俊たちを助けた紺色の着物を身に纏ったその男は、銀色の長い髪を風になびかせて、木の上に立っていた。  日の光りを浴びたその姿は、この世のものとは思えないほどに美しかった。  紫水晶色の瞳、肩に1匹の燕を乗せている。 何度も読み返した文献通りのその姿に、蘭は夢でも見ているのかと思った。「律……律さん」  律は木の上から飛び降りてきた。「うん、そうだ律だ」肩に止まっている燕を指さした。「こっちは紬、俺の相棒で妖だ。俺を知ってるのか?」  英俊が答えた。「知ってるもなにも、あなたは伝説の番人ですから、私は紫雲英俊です。そこで固まっているのが一ノ瀬蘭、彼はあなたに憧れてるんです」 「俺に?物好きだな」自分に会ったことが、固まるほど嬉しいだなんて、変わった男だなと律は思った。 「それから、こっちが朱鷺田白鶴、落ちたのがフランク・ブルーテール赤羽、全員IBAIの捜査官です。それと、そこで気を失ってるのが榎木犀星、妖術使いです」  律は気を失ってる犀星に近づいた。「ああ、俺の術を解こうとしたんだろう、馬鹿だな。俺の術が人間に解けるはずないじゃないか」  フランクは尻をさすりながら訊いた。「どうして蔦に術をかけたんですか?」  律は犀星に霊力を送りながら、申し訳なさそうに言った。「鳥を捕まえて食べようと思ったんだ。そしたら君たちが捕まってしまった。ごめんね」
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