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律は椅子に座り、無意識に生地を撫でた。視線を向けられることに耐えられなくなり言った。「そんなに俺をみつめないでくれるかな、ちょっと居心地が悪くなってきたよ」
「すみません。あなたを研究していて、ずっとお会いしてみたいと思っていたので、嬉しくて、ついジロジロ見てしまいました」蘭は夢にまで見た律が、目の前にいることを現実だとは思えなくて、律を凝視してしまっていた。
「俺を研究?君は変わってるね」研究されるほど奥深くはないだろうと律は思った。
鼻息を荒くした蘭は身を乗り出した。「あなたを研究している人は多いですよ。軍を統一した立役者ですし、マーブルやテレグラフィー、ライフラインに至るまで、その他いろんな物を発明して、便利な世の中にしたのはあなたですから」
「そうかな、そう言ってもらえると嬉しいな」律は発明が好きだったので、自分の発明を便利だと言われたことが嬉しかった。
英俊はここに来た事情を説明した。「律さん、我々はあなたを追ってきたんです。昨夜未明に南東の方角で、強い霊気が発生しました。それで調査のために、フライングボールを使ってここまで来たんです」
「え!俺は何もしてないよ」律には全く心当たりが無かった。
英俊は律に嘘をつく理由があるだろうかと訝しんだ。「ですがフライングボールは、律さんのところに辿りつきました」
「なんでだろう――紬ちょっと探してきて」律は肩に止まっていた燕をマーブルの外に出した。
燕が上空を2周旋回して、律の肩に戻ってきて、チュピチュピと鳴いた。
「――紬は何も見つけられなかったみたいだ、異象は起きてないようだね。それじゃあフライングボールを見せて」
英俊はフライングボールを律に渡した。「どうですか?何か感じます?」
律はフライングボールの匂いを嗅いだ。悪魔は鼻が効く。僅かな異象の匂いでも嗅ぎ分けることができる。「死者じゃない、だけど生者の気配も感じられない、魂の匂いがしないな、俺以外の番人かもね」フライングボールを英俊に返した。「行かないほうがいいよ。誰だか分からないし危険だ。君たちの仲間を気絶させちゃったお詫びに、俺が行って対処してきてあげる」
蘭は、こんな千載一遇のチャンスを逃してなるものかと意気込んだ。「いいえ、律さん!お供させてください!律さんから学びたいことが、たくさんあります。我々はIBAIの中でも、指折りの優秀なチームなんです。黒岡軍の精鋭部隊に負けない自信があります」
律の手をつかんで熱弁をふるう蘭を、恥ずかしく思って、英俊が引きはがした。「それに、調査を命じられてきたので、行って何が起きているのか確認する必要があるんです。番人と戦うつもりはありません。確認がしたいだけなんです」
「そういうことなら、一緒に行ってあげるよ」
「ありがとうございます」英俊は律の協力が得られたことに、胸を撫で下ろした。律以外の悪魔が出て来たとしても、全員生きて帰れる最強のアイテムを、手に入れたようなものだ。
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