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白鶴は蘭の興奮した顔が、可笑しくてたまらず、ずっと笑っていたせいで、表情筋が痛くなってきてしまったところで、笑うのをやめた。「ところで律さんは、どうしてこんな山奥にいたんですか?」
「招き猫を封印してから、ちょうど100年が経ったから、そろそろ成仏できるかなって思って、黒岡に向かってたところだ」
フランクは一瞬何のことか分からなかったが、そういえばIBAIに入局したての頃、レクリエーションで見たことがあったと思い出した。「招き猫って、あの裏山の祠に祀られてるやつですか?」
「え⁉︎裏山に祀ってる⁉︎」
蘭は焦っている律を見て、少し不安になった。「はい、鬼岩の近くの祠に祀られています。鬼岩は律さんが以前、黒岡を襲った鬼を、鎮座させたものだと資料に残っていますが、律さんが祀ったんでしょう?」
「違うよ!それは大変だ。あれは黒岡軍のお堂にいたはず、毎日経を唱えてないと、異象を起こしちゃうんだ」
「え⁉︎」全員が驚いて目を丸くした。
英俊も招き猫のことは、うっすらと記憶にあるだけだったので、どんな余話だったか思い出せず、眉間に皺を寄せた。「あれは俺がIBAIに入った時から、あそこにあります。それに局長も何も言ってなかった。局長をご存じですか?増田海星と言います」
「増田……奏多君と芽依ちゃんの孫か!……そうか、あの小さな海星君が局長をしているのか」律は嬉しそうに笑った。「それにしても奏多君、ちゃんと招き猫のことを伝えてなかったのか」招き猫のせいであんなに奮闘させられたのに、忘れられてしまっていたと知り律は肩を落とした。
「おじい様が亡くなったのは局長が、まだ学生の頃でしたし、当時の人たちは、新しく組織したIBAIの運営に奮闘しなければなりませんでしたから、うやむやになってしまったのではないでしょうか」英俊は伝達ミスを申し訳なく思った。
律は昔一緒に戦った奏多が亡くなったのは、随分前だったなと思うと、ちょっと悲しくなった。「そうか、もうそんなに経っちゃったんだな、時が経っていろんなことが変わってしまうのを、ちょっと寂しく思うけど、立派になった海星君を想像したら嬉しく思うよ」
フランクは思い出して律に言った。「そういえば、鳥をつかまえようとしていたんですよね、腹減ってます?スナック菓子とか菓子パンしかないんですけど、何か食べますか?」
「ありがとう、でもいらないよ。悪魔はお腹が空かないんだ。食べなくてもいいんだけど、黒岡は鶏が美味かったから、ここに来たら鶏が食べたくなってね、黒岡軍の飯は、今でも忘れられないくらい美味かったな」律は思い出したらよだれが出てきた。「今もあそこの飯は美味いか?」
期待に膨らんだ律のキラキラした目に見つめられて、フランクは気まずげに目をそらした。「いやー、俺はなるべく食べたくないかもしれません。体に良いのかもしれないけど薄味で、ヘルシーなものばかりだし、なんだかパサパサしてて、紙を食ってる気分になるので」
「そんな……飯を楽しみにして来たのに……」律には逃げて行く焼き鳥の幻影が見えた気がした。
英俊が笑った。「でも美味い飯屋がありますから、黒岡に戻ったらお連れしますよ、美味い酒もあります」
「酒か!それはいいな楽しみだ」酒と聞いて律は上機嫌になった。
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