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IBAI
秋の空が一面に広がった全面ガラス張りの室内は明るく、部屋の中央に植えられたパープルハートの木が目を惹く。
ここは国際異常現象捜査局本部のカフェテリアだ。
IBAIきっての腕利き捜査官紫雲英俊は、お世辞にも美味しいとは言えない食堂で、昼食を何にするか頭を抱えていた。
体のことを考えるならば、たんぱく質が豊富で、脂質は少なめな鶏肉を選びたいところだ。
英俊は自分の体を見下ろして、夜のトレーニングメニューを頭の中で変更すると、本日のおススメと書かれた、茄子のマカロニグラタンとパン、オニオンスープをトレーに乗せた。
どの席に座ろうかと室内に目を走らせ、見知った顔を見つけた。
長い足を窮屈そうに折り曲げて、ドカッと椅子に座る。
「よお、今昼飯か?」
その男が俯いていた顔を、不機嫌そうに上げた。「ああ?」
彼は一ノ瀬蘭、同じくIBAI所属の捜査官で、英俊が主任を務めるチームのメンバーだ。
「何だよ、機嫌が悪いな」
「何だ英俊か、悪い、今月の成績表をチェックしてた」蘭は手のひらサイズのテレグラフィーを閉じた。
「悪いのか?」
「今のところ俺たちのチームがトップだけど、2位との差があまりない」
蘭にとっては満足いく成績ではなかった。先月の点数よりも大きく下がりそうだった。
「まあトップならいいじゃないか、10月も残り僅かだ。抜かれることはないだろう」
あまりマメではない性格の英俊は、成績をあまり気にしたことが無かった。回ってきた事件と真摯に向き合い、チームのメンバーが、無傷で解決できれば、それでいいと思っていた。
反対に生真面目で、負けず嫌いの蘭は、成績を殊更に気にした。
「危機的状況だぞ、チームの事をもっと心配しろよ、新しく入った妖術使いは、正直使えないし、高橋さんが抜けた穴が痛いよ」
英俊はパサパサしたグラタンを、フォークでつついて、フリーズドライ食品だって、こんなに不味くはない気がすると、顔を顰めた。
「仕方ないだろ、高橋さんは引退したんだ。今のチームでやっていくしかない」英俊は蘭が食べている物にフォークの先を向けた。「昼飯にチョコレートなんか食べてるから、イライラするんだぞ。もっとちゃんとしたものを食べろ」
「うるさい、ほっとけ」蘭は英俊を睨んだ。
「毎日そんな菓子ばっかり食べてるから、大きくなれないんだ」
英俊は185㎝の高身長で、蘭は172㎝、身長差は13㎝だ。
「ほっとけって言ってるだろ」蘭は身長を気にしていたので、指摘されて苛立った。
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