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英俊たちのオフィスはフロアの半分を、他チームと共有している。
12階に降りてくると他チームの主任捜査官、松倉蛍雪が声をかけてきた。彼は誰に対しても腰が低く愛想がいい人好きのする男だ。
「英俊、蘭、南東の調査を任されたのでしょう?私たちは今のところ、大きな事件を抱えていないから、何かあったら、いつでも手を貸しますよ」
「蛍雪、ありがとう。何かあったら連絡するよ」今日もかっこいいなと蘭は思った。
蘭が蛍雪に一目惚れしたのは、かれこれ5年前のことだ。支局から移動してきた蛍雪は、程よく引き締まった身体と、洗練された身のこなしで、セクシーな男の色気を、無意識にまき散らしながら蘭に微笑みかけたのだ。
そして、蘭は一瞬で心を奪われた。
蛍雪は手を振り、自室に入ってドアを閉めた。
嬉しそうにしている蘭に、英俊が耳打ちした。「いつになったら告白するんだ」
気に入った相手がいたら、直情径行するタイプの英俊は、密かに想うだけで、行動しない蘭のことが理解できずにいた。
「うるさいな!告白なんてしないよ、蛍雪は女がいいに決まってる……」蘭は英俊の肩を拳で殴った。
「――ああ!痛いな」殴られた肩をさすった。「お前は馬鹿力なんだから、ちょっと加減しろよな」
「英俊が悪い!」英俊みたいに自信満々にアタックできたら、どんなにいいか、そう思うと、いつも好きな相手を振り向かせてきた英俊に腹が立った。
「告白してみなきゃ、ダメかどうかなんて分からないだろう?蘭は見た目が可愛いから、案外いけるんじゃないか」
奔放とも言える恋愛をしてきた英俊に、軽蔑の眼差しを向けて、うんざりしたように答えた。「それは英俊が、女も男も両方抱けるからだろ」
「ガキの頃のお前は可愛かったのに、何でこんな生意気な奴になっちゃったんだ?」英俊は幼馴染で、弟のように思っている男の態度を嘆いた。
「お前はいつまで経ってもガキのままだ」蘭がまた英俊の肩を殴った。
「おい!だから加減しろって!」
ぷいっと背を向け、蘭はオフィスのドアを開けて入った。
「さっきから、お前たちは何をじゃれあってるんだ?」フランク・ブルーテール赤羽は、2人がオフィスの外であれこれ言い合っている姿を、ガラス越しに見ていた。
フランクは、誰とでもすぐに打ち解けることができる、広量な人物で、善意が服を着て歩いているような男だ。
蘭は仏頂面で、5人掛けのテーブルの椅子に座った。「何でもない、英俊がガキなだけだ」
拗ねた様子の蘭を、愉快そうに笑った英俊は指示した。「仕事が入った。説明するからこっちのテーブルに集まってくれ」
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