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紫雲チームのオフィスは、中央に5人掛けの大きなテーブルと、隅には座りごこちのよさそうな3人掛けのソファーが2つ、1人掛けのソファーが4つ置かれている。
幼さの残る端正な面立ちに、不安そうな表情が、いかにも頼りなさげな榎木犀星は、1人掛けのソファーから立ち上がると、ルーフに出て、テレグラフィーで会話をしている朱鷺田白鶴を呼びに行った。
白鶴はいつも冷静沈着で、情に厚いタイプではないが、婚約者のことだけは、大切に思っていた。
会話は聞こえてこないが、何やら楽しそうに話している白鶴を、英俊は見た。「あいつは、また婚約者といちゃついてるのか?」
3人掛けのソファーに横になっていたフランクは、大きな欠伸をしながら椅子に座り、うんざりした様子で、大袈裟に目を回して見せた。「もう30分近く喋ってる。年末年始の休暇を、雪山のコテージで過ごすんだそうだ。いつになく甘い声で、その相談をしてるみたいだ」
「婚約者っていっても、子供の頃に親が決めたんだろう?よくいつまでも仲良しでいられるな」言い寄ってくる美人には目もくれず、1人の人を思い続けている白鶴のことを、誰かと長く恋愛関係を続けたことが無い英俊は、感心していた。
蘭が英俊に冷たい視線を向けた。「英俊は人を愛したことが無いから、分からないんだよ」
「愛か――」英俊は今まで恋をしたことはあったが、そこまで強く恋焦がれる思いをしたことが無かった。愛すれば、いつまでも仲良しでいられるものなのかと首を捻った。
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