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全員揃ったところで英俊は説明した。「昨夜未明に南東の方角で強い霊気を感知した。ITTが言うには人間の仕業じゃないそうだ、地獄の番人の可能性がある。律なら問題ないが、それ以外の番人となると警戒した方がいいと局長は言っていた」
蘭が付け足した。「人間を憎んでいるようだから、かなりの危険が予想されると思う。心してかかったほうがいい」
フランクは頭の後ろで手を組み、椅子の背にもたれかかった。「番人がらみか、厄介な事件だな――」地獄の番人は悪魔なのだいうことに思い至ったフランクは、驚きのあまり椅子から転げ落ちそうになった。「とんでもない力を持ってるっていう悪魔を人間の俺たちがいったいどうやって捕らえるんだ?」
蘭は旧黒岡軍の資料を機会があるごとに読み漁ってきた。どの資料にも律と柳澤晴翔の最強コンビの伝説が記されていた。またしても、退職した元チームメンバーの高橋に頼りたいと思った。
「律を捕らえるのは不可能だと思う。ましてや律以外の悪魔となると、どんな姿をしているのかも分からないんだから見つけようがない」
「とにかく何が起きているのか確認して、対処できそうなら異象だけ対処して、悪魔には手を出さないってことにしたらどうだ」白鶴が提案した。
英俊は難儀な事件に眉間を寄せた。「まあ、悪魔に手を引くようお願いしたところで、聞いてくれるはずないだろうから、そうするしかないだろうな、念のため武器は山ほど持って行ったほうがいいだろう。戦って勝てる相手じゃないとは思うがな」
今回ばかりは、無傷で帰ってくることが叶わないかもしれないと英俊は胸騒ぎがした。それでも我々が危険だと分かっている場所へ赴くのは、使命を負っているからだ。与えられた任務を責任を持って遂行し、骨身を惜しまず奉仕する。
「犀星、地獄の番人と戦うことになったらお前の妖術が頼りだぞ!新人でこんなでかい事件を担当させられるなんて気の毒だな」そんないい方をすれば、若い犀星は竦み上がってしまうと分かっていて、フランクは犀星をからかうつもりで言った。
案の定、犀星の顔は蒼白になった。犀星は半年ほど前に退職した妖術使いの穴埋めとして今月からチームに加わったばかりで、未だチームに馴染めていなかった。妖術学校を卒業したてのひよっこの彼は、自分に自信が無くいつも怯えていた。
英俊は全員に命令した。「30分後に出発する、準備をしろ」
フランクが犀星に聞こえないよう英俊に小声で言った。「犀星は大丈夫なのか?あいつにはこんなでかい事件耐えられないぞ、高橋さんに戻ってきてもらうか、別のチームに応援を頼んだらどうだ?」
英俊も小声で言った。「分かってるならあんまり追いつめるようなことを言ってやるな、かわいそうに死にそうな顔してるぞ、まだ若いんだから頼りないのは仕方がないだろう」
「だけどさ、妖術学校を最下位で卒業したって聞いた、最下位だぞ!なんでうちのチームに?最強チームなんだから必然的に厄介な事件を担当させられることが多い、人事ももっと頼りになるやつ送ってくれればいいのに」
「曾祖父はすごい人だったっていうから将来性をかったんだろう、鍛えてくれって言われたんだ。彼を連れて行く。何かあったら俺がフォローするから一人前になるまでしばらく辛抱してくれ」
フランクは大きなため息をついて、武器を揃えに行った。
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