南東へ

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 30分後、戦闘服を着た黒づくめの集団は、気を引き締めてマーブルに乗り込んだ。  英俊はパネルに、フライングボールをセットした。これで強い霊気が発せられた地点まで、マーブルが連れて行ってくれる。  長距離を移動するために作られたマーブルの中は、8個の椅子と2つのテーブル、1つのベンチとカウンター――カウンターの戸棚には、飲み物や軽食が入っている――が設置されていて、快適に過ごせるようしつらえてある。  フランクはこのマーブルに〈IRIDESCENT CLOUDS〉と名付けた。  持ち前の運動神経で捜査官になれたフランクは、大人しく待つということが大の苦手だった。「どのくらいで着く?」  蘭はもしもの事を想定して、テレグラフィーで父親にメッセージを送った。送ったのは、週末一緒に釣りへ行く予定の確認だった。未来の話をすれば、無事に帰って来られるような気がした。 「そんなの分かるわけないだろう。フライングボールが、どこへ向かってるのか分からないんだから」  フランクはテーブルに突っ伏した。「――暇だ!」  本を読んでいた英俊が本から顔を上げた。「まだ乗ってから20分くらいしか経ってないぞ、3時間ぐらいかかる旅だったら、どうするんだ。お前も読書してみろ」 「嫌だ、そんなちっちゃい字読めるか!俺は映画化を待つ!」  後ろの席に座っている白鶴が身を乗り出した。「それなら、俺の年末の予定を話して聞かせてやろうか?」白鶴はフランクが聞きたがらないと分かっていて言った。 「絶対に嫌だ!お前の惚気話し聞くくらいなら、死んだ方がマシだ」 「右に同じ、そんな話、ここでしないでくれ、胸くそ悪くなる」蘭が言った。 「何だよ、自分たちが幸せじゃないからって、幸せな俺を妬むなよ」白鶴は嫌味ったらしく、ニタニタと2人を小馬鹿にしたように笑った。  蘭とフランクが同時に言った。「妬んでない!」 「でも幸せじゃないのは事実だろう、蘭もフランクも恋人いないじゃないか」  フランクが得意顔をした。「俺は恋人いるぞ」  蘭は冷たい視線をフランクに向けた。「恋人って豆腐屋の子か?遊びだって言ってなかったか?」 「遊びでも恋人は恋人だ!デートする相手もいない蘭と一緒にするな」 「デートする相手がいないんじゃない!その気になればできるけど、俺は遊びの相手は作らない主義なんだ!」  英俊はこの騒がしい3人を、マーブルから突き落としてやろうかと本気で思った。「お前らのデート相手の話しなんか聞きたくない、俺は本を読みたいんだ。ちょっとは静かにできないのか」  蘭とフランクは睨みあったままだったが、英俊は怒ると怖いことを知っていたので、懸命にも黙ることにした。
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