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 マーブルが突然ガクンと止まって、下降し始めた。  フランクは助かったと思った。退屈すぎて死にそうだと思っていたので、神に感謝するほど喜んだ。「おっ!着いたか!よかった近くて」  英俊たちはマーブルを降り、森の中の、草が鬱蒼と生い茂る場所に立った。  そこは開けた場所だったが、夕刻に差し掛かろうとしている森の中は日が傾き、木の影が大きく伸びていて薄暗い。  その背に、鋭く輝くグレイブを背負った英俊は、剛鉄製のハンマーを手に持ち、辺りを警戒した。「気をつけろよ、何があるか分からないからな」  森の中から鳥がさえずる音が聞こえてくる。ひんやりとした秋の風が、英俊たちを包んだ。  すぐに何かが襲い掛かってくると思っていた蘭は、拍子抜けして言った。「何かあるか?俺には何も見えないし、何も感じないぞ、犀星はどうだ?何か感じるか?」  蒼白な顔をした犀星は、異象を見逃したら、大変なことになると思って、精一杯神経を集中させた。「……何も感じません」  怪訝に思った白鶴が英俊を見た。「英俊、フライングボールが間違えたんじゃないか?」  その時英俊たちの足元で何かが(うごめ)いた。 「足元だ!」英俊が叫んだ。  飛び退く間もなく全員、何かに足をつかまれた。 「これは何なんだ!」フランクは何に足をつかまれたのか確認しようと、鬱蒼とした草を、サバイバルナイフで刈り始めた。 「フランク、あんまり顔を近づけるな、喰われたらどうする」しゃがみ込んでいるフランクに蘭が注意した。  フランクが唐突に起き上がった。「大丈夫だ、俺たちの足に絡みついてるのは蔦だ。で、なぜか動いてる――蔦って動くのか?」  剣を手に持ち、弓を背に背負った白鶴は、なんて馬鹿な奴なんだと思い、憐みの表情を浮かべた。 「フランク、蔦がひとりでに動くわけないだろう」  フランクは照れて頭をかいた。「悪い、俺が知らない動く蔦があるのかと思った。とりあえず切ってみるか、抜け出せるかもしれない」  (きん)の特性を持つフランクが、金の玉を胸ポケットから取り出した。瞬く間に形を変えた金の玉は、白く光るノコギリとなって蔦を切った。  (もく)の特性を持つ誰か、もしくは妖の仕業ならば、これで抜け出せるはずだ。  すると突然、蔦がフランクの足を空中に持ち上げた。 「わあ!」フランクが宙吊りになってしまった。 「犀星!これは妖術だ!術解きをしろ!」英俊が犀星に命令した。 「はい!」犀星は慌てて印を結び、英俊たちの頭上に陣を浮かび上がらせた。その間も蔦が蠢いて英俊たちの足をギリギリと締め付ている。  次の瞬間、陣が吹き飛んで、意識を失った犀星は、ばたりと後ろに倒れた。
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