<23・犬も考え事をする。>

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<23・犬も考え事をする。>

 そもそもつぼみが前世で死ぬ原因になったものこそ、ゲームでのクラヴィーアの死である。  それが、ただ戦場で討ち死にしたというだけだったならまだつぼみもそこまで衝撃を受けることはなかっただろう。もちろん推しの死だから悲しくないはずがないのだが、最大の問題はクラヴィーアの“死に方”にあったのである。  彼は戦場で捕虜として敵兵に捕まり、そこで散々拷問されて苦しめられた後に殺されることになるのだ。何故か彼が率いる部隊の作戦が筒抜けになっており、クラヴィーアは包囲された仲間を助けるためひとり囮になって突撃していき――そして捕まってしまうのである。  ゲームの中ではクラヴィーアこそが主人公であるため、物語も大半は彼視点で進んでいく。確かに暴力表現あり、と注意書きのなされたゲームだったが、まさか最大の暴力表現が主人公リョナだなんて誰が予想できただろう。拷問の表現が、それはもう生々しく描写されていくことになるのである。逃げた仲間の居場所や、軍の機密を吐かせるべく徹底的にクラヴィーアは拷問を受けることになるのだ。  そして、クラヴィーアが拷問に耐え抜いたことで、祖国は最終的に勝利するのだが――その勝利を見届けると同時に、クラヴィーアも力尽きて死んでしまうという流れだった。拷問で片目を失った顔で、それでも青空に向かって微笑む彼のスチルの美しさと残酷さは今でも忘れることができない。――あれだけは。あんな残酷な最期だけは絶対に回避したいと、つぼみは心の底から思っていたのだ。このセカイがゲームの元になっただけの別世界というのならば、きっとその未来だって避けることができるはずだと。  だが。 ――婚約者が、戦争も始まる前から登場するってこと?なんで?  ニュースで見ていても、どう早く見積もっても向こう半年は、隣国と戦争状態になる気配はない。そもそも隣国が宣戦布告を仕掛けてくる原因が、あちらの国で起きた災害が原因で貴重な資源が自給自足できなくなり、周辺諸国に援助を求めたものの望んだ支援が得られなかったから、が最大の理由なのだ。
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