<1・ 転生したら犬でした。>

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<1・ 転生したら犬でした。>

 人間、できれば人生の最期をちょっとはまともな形で迎えたいと思うもの、ではなかろうか。できればベッドの上で、あんまり汚くない形で死にたいと思うのは普通のことだと思われる。残念ながらそう願ったところで、死に方なんてそうそう選べるはずもないのだけれど。 ――ああ、最悪だ!超最悪だ!  片桐つぼみ、三十歳。人が考えうる中でも、ほぼ最低に近い死に方をいたしました。  いや、トイレで踏ん張ってる最中に死ぬとか、お風呂ですっ転んで死ぬとかよりはマシだったのかもしれない。お尻丸出しや全裸で死ぬ(しかも前者の場合高確率でクソにまみれているわけで)のは最低を通り越しているが、つぼみの場合、かろうじて服は着ていたからだ。  ただし、ゲロまみれではあったが。  大好きなゲームで、推しのイケメン貴族様が死んでしまったのが悲しくて悲しくて、仕事帰りに浴びるほどお酒を飲んで帰る途中だったのである。何が馬鹿って、自分の限界を完璧に通り越していたこと。そして、終電を逃した挙げ句、酔っ払って線路の上に落下しそのまま寝てしまうという大迷惑を決め込んだことである。  終電後だったので電車に轢かれることこそなかったが、いかんせん時期が悪すぎた。なんといっても、十二月のものすごーく寒い時期である。そんな時に、上着も脱いでシャツもはだけてスカートも脱げかけた格好でぐかーっと線路の上で寝てたら――そりゃ凍死もしようというものだ。  結果、つぼみは翌朝、情けない格好で死んでるのを駅員さんに発見されましたとさ。最後の記憶は幽霊になって、間抜けヅラして死んでる自分の死体を見下ろしているところだったのだからどうしようもない。 ――お父さんお母さんごめんなさい!これほんとどんな親不孝だよおおおお!?  まさか三十歳にもなって、推しの死に嘆いてアルコールに溺れておっ死ぬことになろうとは。  心の中で両親に土下座しまくった。――そしてそので、つぼみの意識は途切れたのだった。
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