<22・ベッドの中の、優しい記憶。>

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 ***  この世界が、どこまでゲームのシナリオと同じように動くのかはわからない。そして、クラヴィーアの言う通りゲームの世界とは別の世界なのか、同じ世界なのかどうかも結局はっきりしないまま事は進んでしまっている。  裏を返せば。中途半端に、ゲームの世界と同じことが起きる可能性。時間軸が滅茶苦茶に動く可能性も、充分にあったということだ。 「正式な結婚ができるのは、お前が二十歳になってからだが。……二十歳になると同時にスムーズに婚約を結べるようにしておいた方が、この家の為になるだろう?」  試験に合格してから一か月後。研修もそろそろ終わろうかというある日。クラヴィーアがアムハルトの執務室に呼びだされたので、つぼみもそれとなく一緒についていくと。アムハルトは、突然そんなことを言いだしたのである。 「お前は軍で働くことに使命感を覚えている。危険な戦場にも積極的に赴く覚悟だろう。ならば、場合によってはいつ命を落としてもおかしくないということ。……早めに子供は作っておかなければいけない、それはわかるな?」 「……仰ることはわかります。しかし、私はまだまだ未熟者です。結婚よりも、ロゼと共に仕事に邁進していきたい。今結婚して、相手の方を大切にできる自信がありません」 「わかっている。そもそも結婚できるのは二十歳だ、今すぐの話ではない。ただ、婚約者を今のうちに決めておくべきだと言っているだけだ」  この話の流れには見覚えがある。つぼみは心の中で青ざめていた。確かに、ゲームのシナリオでも、終盤でアムハルトはクラヴィーアに婚約者の話を始める。会話の内容は、その時そっくりだった。  だが時系列がおかしい。アムハルトが息子の結婚を気にするようになるのは、戦争が始まってからのことであったはず。危険な戦場に行く息子を危惧して、父が婚約者を見繕うことを考えるという流れだったはずなのだ。今はまだ、隣国とは小康状態が続いており、今すぐドッカンバッカンとやり合う気配はまったくない。ゆえに、つぼみもゲームのシナリオでいうところの時系列は、一章かそこらだろうと踏んでいたというのに。 ――やっぱり、ゲームのシナリオとこの世界は違うってこと?  クラヴィーアも、本気で困惑しているのが見える。まさかこのタイミングでこんな話を切り出されるとは思ってもみなかったのだろう。  彼が、結婚してしまうかもしれない。それだけでショックだが、実のところそれ以上の問題がその先には待っているのだ。  もし、ゲームのシナリオ通りに動くのなら。 ――婚約者ができてから暫くの後に……クラヴィーアは死ぬ……!  それこそが。想像するだけで目の前が真っ暗になるような絶望だった。
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