<23・犬も考え事をする。>

2/5
前へ
/124ページ
次へ
 つまり、向こうの国でその災害が起きない限り、隣国とて攻めこんでくる理由がないのである。  今のところあちらの国にもその兆候はない。ならば、婚約者が登場したところで、クラヴィーアが戦場で死ぬというあのエンディングに直結するとか限らないわけだが。 ――でも、その婚約者も結構胡散臭い女なんだよね。クラヴィーアの死に、直接関係があるとは限らないわけだけど。 「ロゼ、集中!」 「!」  クラヴィーアから、鋭い声が飛ぶ。つぼみははっとして、飛んできたボールを避けた。  既に、軍用犬としての本格的な訓練が始まっている。跳んでくるカラーボールを避けてゴールを目指す、というのが今日の訓練内容だった。同時に、カラーボールの中で一つだけ体にインクがつかない“白いボール”があり、それはキャッチしてゴールに持っていかなければいけないのである。  犬の視力は、人間と比べるとあまり良くないとされている。ブラックハーツという種類は他の犬と比べると目が良い方ではあるが、色を見分けるのは人間と比べるとそこまで得意ではない。  それを補うのが、ボールについた匂いだ。カラーボールは、それぞれ違う匂いがしみ込んでいる。白いカラーボールはミルクの匂いがしているので、それだけを注意深く選んでキャッチしなければいけないのだ。 ――と、とりあえず訓練頑張らないと。いつ、本格的な任務に駆り出されるかもわからないんだから!  とにかく白いボール白いボール、と思いながらゴールへと走っていく。が、まだ新人のつぼみに完璧にカリキュラムがこなせるはずもなく。他のボールを避けながら、白いボールだけ選んでキャッチするというのはけして簡単なことではないのである。 「ぶべっ」  顔に思いきり張り付く、赤いボール。  あっという間につぼみは、血染めのゾンビ犬に早変わりしてしまったのだった。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加