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「ロゼは、匂いを嗅ぎ分けるのは得意だろう?」
インク塗れになったつぼみを訓練場のお風呂で洗いながら、クラヴィーアが言った。
「さっきの赤いボールも、避けようとはしていた。反応できなかったわけじゃない。ただ、その後ろから飛んできていた白いボールに気を取られてしまっただけだ、そうだろう?」
「……さすが、クラヴィーア。よく見てる」
そう。お目当ての白いボールが来た!と喜んだせいで近づいて来た赤いボールを見落としたのだ。幸い、ボールに使われているインクは眼や口に入ってもさほど有害ではない物質で出来ている。ちゃんと洗えば落ちる。まあ、黒犬のつぼみはともかく、白い犬があれを浴びてしまったら目立つし、取れるまで相当手間がかかるだろうけれど。
「ついでに全身洗って綺麗にしてしまうおうか、、そろそろ洗い時だったしな。デリケートゾーンも綺麗にしてやろうか」
「うう、私が恥ずかしがってるのわかって言ってるでしょ……」
「安心しろ、犬の姿のお前を抱こうとは思わないとも」
アナタは興奮しなくても、こっちは結構その気になっちゃうんで困るんですが、とつぼみは心の中だけで。それにしても、水に濡れてクラヴィーアのシャツが肌に張り付いているのを見るのはなかなか目に毒だ。桃色の綺麗な乳首もシャツから透けているし、綺麗に乗った筋肉は白くて柔らかそうでなんとも美味しそうに見えてしまう。
イケメンってほんと罪、としか言いようがない。果たして彼は、自分の魅惑の色気にどこまで自覚があるのやら。
「……婚約者の件だが」
つぼみの前足の怪我はとっくに治っている。左前脚から綺麗に洗い流しながら、クラヴィーアは言う。
「私はなんとかして断る方法を探すつもりだが……父がいつになく頑固でな。少々時間がかかるかもしれない」
「……そっか」
「すまないな、不快な思いをさせて。私は本気で、お前がいれば他に婚約者など必要ないと思っているんだがな。……そもそも、本気で恋愛ができるわけでもないのに婚約者など、相手にも失礼だろう」
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