墜落十六時間後

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「……」  体が……。  揚げる前の唐揚げみたいだ。赤黒く濡れて、臭いを放つまま粉をまぶされて。服がねっとりと重たい。  顔も、少女は自分ではわからないが、(すす)なのか土埃(つちぼこり)なのかわからないもので(まだら)に汚れている。額も露わな輪郭に、生気の混ざった白い眼差(まなざ)しがあるのだから、どこか(くちばし)で突いた亀裂(きれつ)にも似ていた。  だから、その青年は気づいたのかもしれない。  まだパリッしている消防団の半被(はっぴ)。真っ青な顔で、吐き気を飲み込むように上を仰いだ時、 「……子供が生きてる!」  と指さして叫んだ。  揃いの半被を着た、もっと年配の男達が集まってくる。  少女の唇が震え、両腕が微かに動いた。 「あー! じっとして!」 「すぐ下ろしてやるからなぁ!」 「よくがんばったなぁ、よくがんばった……!」  航空機は、丸めて捨てられた紙の形をしていた。男達はそれに取り付き、金属片が手に突き刺さらないよう、転がる人の顔を踏みつけないよう近寄っていく。  少女は客席の最後列であった場所、跳ね上がる形で折れたその残骸に両足を挟まれ、胴体が浮き上がり、逆立(さかだ)ちの体勢だった。だらんと下がった両手が(かろ)うじて座席に付くため、宙釣り状態にはならずに済んだ。  何本もの腕が少女に伸ばされた。  真っ先に腰の辺りに毛布が巻き付いた。骨の折れた両足を慎重に抜き取られる。  ようやく降りることができた。  照りつける日射、おかしな臭いのする森の中、白雪姫みたいに横たわったまま運ばれる。  いくつもの男の顔と腕が周りにあって、誰に一番体重を預けているのかも、誰に訊かれたのかもよくわからない。 「お嬢ちゃん、名前は?」 「名前は? 誰と乗ってたの?」 「名前、言える? あなたの名前」  どの顔にも焦点が定まらない。  それで少女は、最も正面にある青い空を見た。  熱く沈黙した丸い太陽。  それが轟音と風によって陰ったかと思うと、ヘリコプターが接近してきた。彼女は再び空飛ぶ物体に乗らなければならないらしい。
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