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理恵と西瓜
愛が会計を済ませる頃には、町の耳鼻科はいつにも増して混雑していた。午後は定休だし、明日からは三日間お盆休みで休診だから。
(理恵ちゃんに予約取っておいてもらって本当によかった……)
「誠、行くよー」
待合室の隅に声をかける。今日で五歳になる誠だ。
誠は聞き分けよくソファを下り、絵本を本棚に戻してきた。もう何度も読んだ本だからだろう。
「実ちゃん、寝んねなの?」
「うん」
抱っこ紐の中では、まだ一歳の実が目を閉じている。
赤ん坊のぷっくりした頬を見るたび、一体何を口に含んでいるのかと、誠は指を突っ込んで確かめようとする。それをいなしつつ、マジックテープの靴を履かせて耳鼻科を出た。
蝉の声を聞きながら、建物裏手の駐輪場に回る。
少し盗難を心配したけれど、杞憂だった。愛の自転車の後ろカゴには、丸く張り詰めたビニール袋が変わりなく積まれている。
前方のチャイルドシートに誠を乗せてから、解錠して道路に出た。
「お手伝い!」と言って、誠が足置きごと前後に体を揺らすのもお決まりのことだ。愛が力を込めてペダルを漕ぐ姿を真似しているのだろう。ただでさえ今日は後ろが重たい。
ほんの二十秒ほど走って、小さいアパートにやってきた。駐輪場を拝借し、また誠を下ろすと、今度は後ろカゴのビニール袋も手に取った。
一○二号室の呼び鈴を押す。すぐに扉が開き、ママ友の理恵が笑顔で出迎えた。
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