17人が本棚に入れています
本棚に追加
「――墜ちた後が大変だった。あの山、昔からずっと自然のままでね。プロの救助隊が来たけど、地元の男でもなきゃ道筋がわかんないの。村の男達が消防団の半被着て集まってさ。往復何十時間もかかるぞって覚悟しながら、山に入っていった」
「……」
「翌日の昼まで歩いて、沢にうつ伏せの人とか木に引っかかってる人とかが見えてきて……やっと現場に着いたんだって。機体はグチャグチャになって、前の方は夜の間燃えたみたい。せっかく原形留めてた遺体も黒焦げ」
「……」
「後ろの方は焼けてなくて、見た目は生きてそうな人達ばかりだったって。でも、抱えてみるとすぐにわかるんだってね。あ、ダメだこれって」
「……」
「――だけど、ひとり。たったひとりだけ、助かった女の子がいたでしょ? 報道では、A子ちゃんって呼ばれてる。インタビューの受け答えがしっかりしてて、目もパッチリして、この時期のちょっとした顔だよね。今高校生なのかな」
「……」
「あの子を最初に見つけたの、私の弟なんだ。体を抱えた瞬間、ああ、大丈夫だ、この子は生きる……ってわかったんだって。本当に、それだけはよかったよね……」
「……」
「村の女達は、皆で炊き出しだった。救助隊とか警察とか、医者、看護婦なんかもたくさん来てたから。私もお腹大きかったけど、休めなんて言われなかった。必死でお握り作ったよ」
「……」
「学校の体育館があってね。遺体は全部そこに運ばれたの、身元とか調べるために。けど、焼けた遺体はそれが難しくて、腐敗も早かった。最後には全部の遺体が片付いたけど、死臭が抜けなくて……体育館は取り壊されちゃった」
「……よく喋るね。理恵ちゃん」
「うん。いつもは忘れるようにしてるんだけど。西瓜見るとダメ、全部思い出しちゃって」
「だから西瓜が嫌いなんだ」
「うん。見るとゾーッとする」
「西瓜が可哀想だね。何も悪いことしてないのに」
「そうだね。でもさ、モノでしょ。実際の被害者でもない私がさ、誰かを恨んで恨んで、一生ゆるさないでいるよりかは健全じゃない? 西瓜ひとつ食べられないでいるほうが」
理恵の顔色は相変わらず悪い。
それでも表情は、いつもの調子に戻りつつあった。
「ダーン、ダーン! ズクシ!」
すっかり飽きてしまった誠が、愛の膝や太腿を叩いている。
最初のコメントを投稿しよう!