今日は僕の誕生日

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今日は僕の誕生日

 ケーキ屋に寄り、予約していたものを受け取った。  が、乗せるつもりだった後ろカゴには西瓜が鎮座したままだ。 「お願い! 誠、気をつけて抱っこしててね。誠の誕生日ケーキなんだからね!」 「きょ〜はボクの誕生日! 赤ちゃんになって生まれた日〜! ……」  正午、どうにか自宅アパートに辿り着いた。  誠に手洗いうがいを指示し、眠る実はベビーベッドに移す。  ケーキの箱はダイニングテーブルに置いた。 (本当は、夕飯の唐揚げの後に切るつもりだったけど。もういいか、昼ご飯ケーキで……)  冷蔵庫からタッパーを取り出す。切った西瓜が入っている。  小皿とフォークを並べながら、愛はちらりと居間を見た。夫の(いたる)が、寝間着姿のままテレビを眺めている。 『――多くの犠牲者を出したジャンボ機墜落事故。あれから五年。現場のN県T山には、今年も遺族の方々が集まっています……』 「至。お腹空いてるでしょ。こっち来て、ケーキ食べよ? 西瓜も」 『息子夫婦が……孫も乗ってたんです。皆死んでしまった……。ゆるしません。絶対に、二度とこんなことがあってはいけない。……』 「至。これ食べちゃわないと。冷蔵庫一杯になっちゃう……」  ベタついた前髪に、無精髭の顎、曇った眼鏡のレンズ。それらが愛を向くことはない。ブラウン管のジリジリした光だけを間近に見つめている。  誠が戻って来た。そして、至の丸まった背中に全身で飛びついた。 「きょ〜はボクの誕生日! 赤ちゃんになって生まれた日〜!」 「――うるさいッ! こんな日にヘラヘラする奴があるか!」  至の腕が乱暴に動く。振り払われた誠は、尻から床に落っこちた。  愛は素早く駆け寄った。ワーッと天井を仰ぐ誠を抱き上げ、キッチンに戻る。
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