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『――A子さんは、当時中学一年生。楽しいはずの家族旅行で、両親と妹を失った。この事故の生存者は、A子さんただひとりだった。……』
ビクリ――と、夫の肩が大きく揺れた。
怯えた獣みたいに、それでも食い入るように目を見開く。
パッチリした目の高校生が大写しになった。化粧っ気は無いのに、黒い瞳はアイドルのようにキラキラして、静かな表情でインタビュアーを見つめている。
『勿論悲しいです。辛くて苦しくて、眠れない夜もありました。……でも、あの日に縛られてちゃいけないとも思うんです。……私、看護婦になりたいんです。看護婦さんにたくさん助けてもらったから。……』
「あああッ……う、アア、あぁぁあ……!」
A子の顔が、夫の涙と鼻水、涎によって汚れていく。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいと、画面に額を打ち付けながら何度も呻いている。
「A子さん、ごめんなさい。僕が悪いんだ。僕達は……僕は、わかっていた。あの機体が墜ちるのをわかっていた……!」
――至は、H空港で働く航空整備士だ。
あの機体が事故を起こす前から、何度も点検に関わっていた。
内部は摩耗や老朽化が進み、いつ見ても酷い有り様だったという。フライト前提の簡単な整備でどうにかできるものではなかった。
『いつ墜ちたっておかしくない!』
繰り返し上司に訴えた。でも、『機体を買い替える余裕も休ませる暇もない』と取り合ってもらえなかったそうだ。
そして、事故発生の数時間前も。
至は知っていた。笑顔の乗客を飲み込んでいく機体は、本当に酷い状態だった。
が、その日に限って上司に噛みつくことはなかった。至は慌てて退勤したのだ。
『奥さんの出産予定日? 何してんだ早く帰れ! 初めての子供なんだろ。奥さんについててやれ! ……』
「A子さん、A子さんごめんなさい。僕があの日も報告していれば、何かを変えることができたかもしれないのに。……なのに僕は、その義務を放り出し、産院に走ってしまった。ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい……! うわあああ――……あああああ――っ……」
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