墜落十六時間後

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墜落十六時間後

 眠ってしまっていたらしい。  十二歳の少女は、重力に引っ張られるがまま瞼を開けた。  焼け付くほどの太陽が、お腹で抱えられそうなほど(そば)にある。  辺りからは幾重もの蝉の声。  ザーザーと流れる沢の音が、頭と指先のずっと下から。  ……それしか聞こえない。  気を失う前。  夜までは、近くで父の呼ぶ声が聞こえていたのに。  妹も、お母さんが死んだと言ってあーあー泣いていたのに。 『誰が悪いの? 誰のせいなの?』 『飛行機操縦した人のせい?』  『飛行機造った会社のせい? ……』  知らない人達も大勢。  励まし合う声や、助けを求める声、痛みに呻く声がずっと聞こえていたはずなのに。 『すみませーん。赤ちゃんの頭ありませんか? 誰か持ってきてもらえませんか? ……孫の顔見せろって、義理の親の言うこと聞こうとしたら、あはは……』 『盆の休みだってのに、会社に一日奪われた。本当なら昨日の便で実家に帰れてたのに。やっぱハゲ課長に殺される運命だったか……』 『今回撮影が巻いたの、なんで? 最初の予定通り、一本遅い便に乗ればよかった。マネージャーがいらん気遣いやがって、クソ……』  ――今はもう、何も聞こえない。  静かだ。蝉が元気なだけ。  満席のジャンボ機には、朝礼をやる時の学校の体育館くらいの人がいた。それなのに、全員がシーンとできるなんてことがあるのだろうか。
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