月とたい焼きの夜

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 期末レポートが無事に終わったので早く寝ようと布団に入ったら来月に迫ったサマーインターンの夢を見た。社員にいびられたうえに同期からはマウントを取られる夢だった。  汗で張りついた前髪を右手で額からはがしながら起き上がり、左手でカラカラと窓を開ける。  たいやきが食べたくなる夜だ。  杏子(きょうこ)は七月の夜の空気を吸いながら、そんなことを考えた。たいやきは過去二回しか食べたことがなく、しかもどちらも中三のときである。杏子はあんこが苦手だった。 今日はいい夏の夜になる。あのときと同じくらい、もしくはそれ以上。杏子が大きく伸びをすると、指の先が満ちる途中の月に重なった。 ◇◇  杏子はむしゃくしゃした気持ちでリュックの中の参考書を机の上に積み重ねていた。  夏期講習から帰ってきた杏子を迎えたのはおいしい夜食でも兄たちのにぎやかな声でもなく、母親である母のうるさい小言だった。  内申のこと、模試のこと、志望校のこと。  公立の中三なんてたまったもんじゃないと思いながら杏子は床に足を踏み鳴らそうとして、少し考えてからゆっくり下ろした。音が響いたら母から怒られる。  気を落ち着けようとカラカラと窓を開けると、肌触りのいい空気が入ってきた。帰りのときは気づかなかったが、満ちる途中の月もある。  今日はいい夏の夜になる。  杏子は小さいバッグにケータイと財布を入れる。部活の外でのトレーニング用に買ったキャップ帽を深くかぶると、忍び足で玄関へ向かった。
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