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「冬真は私の彼氏なんだけど」
華奢で、でも胸は大きくて。ちゃんと手入れされているのが分かる薄茶色の髪の毛ときっちり施された化粧。短いスカートから覗いた足は白くて、程よく肉付いていた。
友人たちが見れば下世話な妄想の種になりそうなそれを見ていると、あぁ女の子だなぁと馬鹿なことを考えてしまう。
「聞いてるの!?」
癇癪を起こしたような甲高い声に、顰めそうになってしまった表情を取り繕う。
「……聞いてるし、知ってるよ」
わざわざ俺に言いに来なくても、君が冬真の彼女だってことは、知りたくなくても知っている。
でも彼女が求めているのはそういうことじゃないと、吊り上げられた眦とその奥に籠る敵意。歪められた唇が突き付けてくる。
「じゃあ、冬真に私を優先するように言ってよ!」
曰く、デートに誘ったのに俺との約束があるからと断られた。
曰く、一緒に登下校したいのに、俺がいるからと断られた。
曰く、夜電話しようと言ったのに、俺とするからと断られた。
断られるときは必ずと言っていいほど俺の名前が並ぶ。
それがどうやら目の前の彼女は気に入らないらしい。
「普通、ただのトモダチじゃなくて彼女を優先するでしょ!?」
自分勝手な暴論をさも正論とでも言いたげに振りかざす彼女に、肩を竦めて見せた。
「……友達と彼女のどちらを優先するのか決めるのは本人だよ」
冬真が彼女ではなく、俺を優先した。ただそれだけのことなのだと。
優越感を少しも外に漏らさないように丁寧に表情筋を動かし、困った顔を作る。
「っじゃあ、アンタが断ればいいじゃない!!」
大きくなる声量に集まってくる野次馬。頭に血が上りすぎて周りが見えなくなっている彼女は、それにすら気付かない。
せめてもう少し人気のない所でやれば冬真の耳に入ることもなかったのにと、憐みと嘲笑が舌を転がる。
冬真が面倒事が嫌いなことも知らないで、よくこんな行動を起こせたなぁ、なんて。上から目線になっているのを自覚しながら、笑いかける。
「……俺にとって冬真は大事な幼馴染なんだ。だからごめんね」
はっきりと拒絶されるとは思わなかったのか、呆然と佇む女子生徒に背を向けて。騒ぎが収まるまで図書室で時間でも潰そうと廊下を進む。
遠くから飛んでくる癇癪も罵倒も、歪んだ優越感に守られた俺には届くわけがなかった。
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