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ずっと願っている。
少しでいい。瞬きするより短くても、砂粒よりも小さくても良い。琥珀の瞳に熱を灯して、俺を映してくれたらと。
叶わない願いだと、俺はきっと誰よりも知っている。
幼馴染兼親友なんて、他の誰よりも近い席に居座っているからこそ。向けられているのが、友愛や親愛であると理解している。
純度百パーセント。下心や恋情なんてものは何処にもない。
その歪みの一切ない信頼の眼差しに俺の薄汚い感情が見透かされやしないかと、張り付けた笑顔の下でいつも怯えていた。
「なぁ、律。さっきの授業のノート見せてくんねぇ?」
気付いたら寝てたんだよ、と。まだ少し眠そうに目を擦る親友の前に日本史のノートを差し出す。
「冬真さぁ。今度のテストで成績悪かったら塾行かされるって言ってなかった? 呑気に寝てて大丈夫なわけ?」
「だめ」
「それならちゃんと起きてなよ。俺だって毎回ノートしっかり書いてるわけじゃないんだからさ」
……なんて。
こんな時の為に必死で目を開けて授業を受けてるなんて、目の前の鈍感は知らないし、伝えるつもりもない。分かりやすく丁寧に書いたノートの秘密は、俺だけのものだ。
「分かってんだけど、ねみぃもんは仕方ないだろ。それに俺にはお前がついてるし?」
憎たらしいくらいの笑顔ににやけそうになる表情筋を引き締めて、呆れた顔を作る。
「おだてたって、テストのヤマ予想くらいしか見せられないけど?」
「おいおい、律最高かよ!!」
「でしょ。昼飯奢ってくれてもいいんだよ」
「りょーかい。明日は俺の奢りな!」
何時ものように肩を組み、笑い合う。
別に女の子になりたいわけじゃない。
こっぱずかしくなるような甘いセリフを囁いて欲しいわけでもない。
ガラス細工にするみたいに優しく丁寧に触れて欲しいわけでもない。
どちらかと言えば、俺が冬真にそれらを与えたいくらいで。だからと言って、実行出来るかと言えば、答えは否だ。
誰よりも、冬真の新しく出来た彼女よりもずっと近い距離。
伸ばすまでもなく肌に触れてしまえるこの距離は、息苦しくて。同時にとても居心地が良い。今の所俺だけに許された立ち位置を手放すくらいなら、劣情を飲んだ方がマシだった。
……ただ、ほんの少し。昔一度だけ見た、熱のこもった目を向けられたいと考えてしまう矛盾だけは、どうしても消えてくれない。
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