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「なー冬真ァ、お前、彼女と別れたんだって?」
「……は? …………あーそうそう。別れた」
一瞬、何を聞かれたのか分からない顔をした後、どうでも良いことを思い出したように、適当に頷きながら冬真はスマホへと視線を戻した。
「もったいねぇー! あの子おっぱいデカいし、顔も可愛かったじゃん。何で別れたんだよ」
「いやいや、お前しらねぇの!? 元カノ、律に喧嘩売りに行って勝手に大騒ぎしたんだよ! あれは流石の俺もドン引きだった」
「まじで!? うっわ見たかった!」
当事者を置いて盛り上がる二人を横目に、ミートボールを口に入れる。
少し前まで好きだった味も今はただ濃すぎるだけ。追加で放り込んだ米と一緒に呑み込んで、ゲームに夢中な冬真の肩を小突く。
「ゲームも良いけど、食べる時間なくなるんじゃない?」
「おー」
さっきと同じそっけない返事。だけど冬真はスマホを鞄に放り込んで、弁当を広げ始める。
そんなちょっとしたことにすら、喜びを感じてしまうのはおかしいだろうか。
「そういえば、冬真もだけど、律も同じ理由で別れてなかったか?」
散々盛り上がっていた友人の矛先が俺たちへと戻った。
「……あーそうだね。なんか、自分を優先してくれって言われちゃうとめんどくさくなっちゃって」
「けっ! これだからモテ男たちは!! 俺らにも一人くらい恵んでくれても罰は当たらないと思いまーす!」
出来れば可愛くてエロい子希望!! と笑う友人に、だからお前らはモテねぇんだよと冬真が容赦なく突っ込んでいた。
騒ぐ彼らから一歩引いて、黙々と弁当を食べ進める。
もう、美味しいとは感じなかった。
それは間違いなく、汚い優越感のせいだろう。
冬真が彼女と別れる原因は、ほとんどが俺だ。元々休日は冬真とすごしていたし、登下校も、電話も。普通の幼馴染より遥かに近い距離感が、俺たちの当たり前で、疑問に思ったことなんてない。
だけどそれは俺たちの考えであって、他の人。ましてや彼女に理解しろと言うのは無理がある。彼女が憤るのは当然なのだ。それを分かっていて、俺はそのままでいた。
冬真にとって特別なこの立場を利用して、俺には一生届かない特別の邪魔をする。
底にこびり付いた汚れにふたをして隠し、万が一にも零れたりしないようにビニール袋に入れて縛る。カバンの奥底に突っ込んだ勢いそのまま、チャックを最後まできっちり閉めた。
虚しさから漏れてしまった自分に向けた嘲笑は、幸い誰にも拾われることはなくて。そっと席を立つ。
なぁ、冬真。
隠してばかりの、自分のことしか考えられない最低な俺を早く見つけだしてくれ。
罪悪感を覚えてるうちに。これ以上暴走しないうちに。俺を暴いて、断罪してくれ。
それでどうか、お前を好きになってしまった俺を許さないで。
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