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1.バンドの正体
バンドメンバーの四人が正方形を作るように椅子に座っている。
彼ら以外誰もいない。
コキコキと首を鳴らすと、ボーカルのRyushinが口を開いた。
「今日こそ決めっぞ」
「誰かさんがダダコネしてなきゃとっくに決まってたんだけどな」
犬猿の仲であるギターのKaiseiが自分の爪を見たまま呟くように言った。
「あ?ダダコネしたのはてめえだろが」
気性の荒いRyushinが腰を浮かせて凄んだ。
短気だが感情を露骨に示さないタイプのKaiseiは、爪に目をやったまま動かない。
「いい加減にしろよ。バンド名くらいでいつまでも揉めてんなよ」
呆れたように二人を制したのは、仕切り屋のドラム、Leiyaである。
しかしRyushinの興奮は収まらない。
「バンド名くらいじゃねえから。無名の俺たちに興味を示してもらうためにはまずバンド名が重要なんだっつったろ。それをこいつが……」
Kaiseiが落ち着いたトーンで反論する。
「あ?バンド名が重要ってのは同意見だぞ。お前のインパクト重視の命名センスに腹が立ってるんだよ。俺たちの音楽の方向性を表すようなバンド名にするべきだって言ってるの俺は」
Leiyaは、Ryushinがさらに食ってかかる前に話をまとめた。
「だから匿名で一案ずつ出して多数決で決めようってなったんだろ。これじゃあバンド名が決まってもこの先の音合わせが思いやられるな」
さすがにその通りだと思ったRyushinは、Kaiseiを睨んでから渋々といった様子で椅子に尻を戻した。
殺気立った雰囲気の中、見た目も地味でおとなしいベースのTaigaは一言も発さずに俯いていた。
とりあえずその場が収まると、Leiyaは小さな布の袋を出した。
「じゃあバンド名を印字してきた紙をこん中に入れて」
案を手書きにしなかったのは、筆跡から誰の案か分からないようにするためである。
四人が各々の紙を布の袋に入れた。
「この中から絶対今日決めるんだからな。今日決まらなかったら解散。いいな」
前回の決め事をLeiyaが確認する。
他の三人が頷いたのを見て、Leiyaは布の袋を隣に座るTaigaに向けた。
「一つずつ引いて」
今まで俯いていたTaigaの肩がビクッと反応した。
「……ぼ、僕が?」
三人の気遣った視線を感じたTaigaは、最初の紙に震える手を伸ばした。
「そんな震えなくていいよ。全部見ての多数決なんだから」
Leiyaがフォローした。
しかし、Taigaが震えていたのは緊張や恐怖からではなかった。
Taigaは笑いを堪えていたのだった。
《無名の俺たちに興味を示してもらうためにはまずバンド名が重要なんだ》
《俺たちの音楽の方向性を表すようなバンド名にするべきだ》
……僕たち、高校の文化祭で一回演るだけのコピーバンドなんですけど。
《俺たちの音楽》って何?
《バンド名が決まってもこの先の音合わせが思いやられるな》
……だから僕たち、エアバンドなんですけど。
音合わせ?何を格好つけてるんだこいつら。
さんざん僕をイジめてきたこのバカ三人に、今日は仕返ししてやるんだ。
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