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3.闖入者
そこに印字されていたのは、
[Queen Bull]
悟られないように視線を動かして誰の案なのか探ってみる。
忌ま忌ましいといった感じで眉間にシワを寄せるRyushin。
鼻をつまんでニヤケ顔をごまかすLeiya。
白々しく溜め息をついて小鼻をカリカリ
するKaisei。
こいつだ。
普段はクールなのに演技はできないタイプなんだな。大根役者過ぎて匿名が意味を成さない。
Kaiseiは「音楽の方向性に関連したバンド名にするべき」って主張してたから、『King Gnu』をもじったと思われる案は筋が通ってる。
だけどケンカする程バンド名にこだわって、わざわざ日を置いて考えてこれ?
マズい、また笑いそう。
吹き出してしまう前に次の紙を引いた。印字されていたのは、
[明けない夜の止まない雨]
スカし過ぎ。エアコピーバンドの分際で。
《ありえないモノ》的な意味かな?
また誰の案なのか探ってみる。
意味を考えるようにRyushinは腕を組み始め、Kaiseiも同じく意味を見出だそうと中空に視線をやっている。
Leiyaは難しい顔で小首を傾げるフリをしながらさりげなく僕らの反応を窺ってる。
こいつだ。
何だかんだで一番格好つけなのはLeiyaだからね。
そして次の紙を引いて開いた。印字されていたのは、
[ダイナマイト・リスキー・キャピタル]
僕の案じゃないからこれはRyushinだろう。インパクト重視のRyushinらしい案だ。
様子を見てみると、しきりにアゴの肉をつまんでいた。こいつもまた演技ができないタイプだね。
あまり知性を感じさせない案に対して、KaiseiとLeiyaはどこか嘲笑してるように見える。
だけど、僕はバンド名に込められた意味を見抜いた。
そして最後の紙を引いて開いた。これは僕の案。
[ニャンニャンズ]
2年2組だから2と2でニャンニャン。
誰かが、もしかしたら僕以外の全員が鼻で笑った。
エアコピーバンドという滑稽な存在なんだからこのくらいのコミックバンド感があった方がいい気がするんだけど。
全員の案が出たところでLeiyaが口を開いた。
「じゃあ多数決しようか。みんな決まったか?」
僕以外の三人の様子から、これ全員自分の案に入れる気だなという予感がした。いや、確信だな。
「Taigaは決まったか?」
リアクションを保留していた僕にLeiyaが聞いてきた。
待っていたセリフに僕は、
「決まった」
と答えた。
その声が不自然に大きかったので、三人はちらっと僕を見た。
するとその直後、
「失礼しまぁす」
というハツラツとした声がして、二人の女子が入ってきた。
僕に向いていた三人の視線がキレイにそちらに移る。
入ってきたのは一年生にして高校のマドンナに君臨する美也子と、その引き立て役と陰口を叩かれている同じく一年生の智帆だ。
途端三人がそわそわし始めるのが分かって、僕はまた笑いを堪えるのに必死になる。
この三人は美也子に惚れてる。全員認めてないけど、普段から見てれば分かる。
『King Gnu』のコピーバンドを組んだ理由も、『King Gnu』ファンの美也子の気を引くためだ。
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