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4.そわそわが止まらない
「男子四人で何してるんですか?あやしいですよぉ」
ほとんど面識のない先輩の視線を浴びてるにも関わらず、美也子は臆することなく明るくからかうように言った。
美貌だけでなくこういう天真爛漫さも大人気の理由だ。
「うっせえ。関係ねえだ…っしょ」
ぶっきらぼうに答えようとしたけど緊張で語尾が定まらなかったRyushin。
関係ないどころかKing Gnuの大ファンの美也子のためにコピーバンドやるクセに。エアだけど。
「え〜!?何か冷たくないですか?ねえ?」
美也子は楽しそうに智帆に同意を求める。
「冷たいね。かわいい後輩が尋ねてるのに」
と同調する智帆。
『お前はかわいくないだろ』と三人でユニゾンしそうなところを何とか思い止まった感じに見えた。
「今大事なとこだから」
それをセクシーだと思っているのか、大して長くない前髪をかきあげながらKaiseiが言った。
何が大事なんだか。エアコピーバンドの一日だけのバンド名を決めるのが。
「Taiga、早くその従妹に帰ってもらってくれよ」
Ryushinが僕に水を向けた。
そう、Ryushinたちが僕へのイジメをピタッとやめたのも、バンドに入れられたのも、美也子と僕が仲の良い従兄妹関係だから。
僕がメンバーに入れば美也子がステージを観に来るだろうって寸法だ。
「それはちょうど良かったです。たまには一緒に帰ろうと思って来たんですよぉ。ところで何でタイガなの?」
美也子にとっては当然の疑問だ。
僕の名前はマサシなのだから。
四人共絵に描いたような地味な名前だから、スタイリッシュにしたいってKaiseiが言い出して全員名前を変えたのだ。
それで本番でメンバー紹介する時に名前忘れないようにって普段から呼ぶようにして。
何度も言うけど、文化祭でワンステージやるだけのエアコピーバンドなのに。
「ちなみにトシオ君がRyushinで、ヒロシ君がKaiseiで、タロウ君がLeiyaって言うんだ」
わざとメンバー紹介してやった。
「何それ〜」と美也子と智帆が机を叩いて大笑いしている。
僕以外のメンバーの目は恥ずかしさで死んでいた。
僕は女子の笑いが落ち着いたところで、King Gnuのコピーをする旨、そのバンド名を決めようとしている旨を説明した。
「へえ面白そう。私たちにも見せて下さいよぉ」
男にモテるのがよくわかる人懐っこさで近寄って来る美也子。と、智帆。
美也子と智帆は候補になっているバンド名の紙を覗き込もうとした。
食いつかれて嬉しいクセに、「来んなって」と鬱陶しそうな顔と声を作って拒むテイを取るRyushinとKaisei。
「いいじゃないか別に。なんだったら多数決にも参加してもらうか?」
リーダー面でカットインしてきたLeiya。
美也子への恋心もポーカーフェイスを気取ってるけど、首から上が真っ赤っ赤なのが笑える。
「は?何で関係ねえ女子を多数決に入れるんだよ」
美也子と親しくなるチャンスに舞い上がってるクセになおも突っ張ってみせるRyushin。
「にょじん……にょん……じょ……」
美也子に緊張したKaiseiは「女人禁制」が言えず、何も言おうとしてなかったような顔を作った。
いつもクールを気取ってる男のそれは滑稽さが倍増して見えてしまう。
「関係ないって言い方ヒドくないですか?」
と智帆が言った。
『お前は本当に関係ない』と三人でユニゾンしそうなのを、またしてもすんでのところで思い止まったように見えた。
「やっぱり冷たいんですけどぉ」
わざとかわいくむくれて美也子が言うと三人は内心の幸福感が表情に漏れ始めた。
「見ちゃおう見ちゃおう」
美也子はそう言って、智帆と共にバンド名の案を見た。
本当は美也子と戯れたいのでRyushinも Kaiseiも当然拒まない。
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