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5.女子評
[Queen Bull]を見て、英語が得意な美也子が突っ込んだ。
「Bullって雄の牛のことだけど女王なんですか?」
Kaiseiを見ると、口元を手でさすりながらせわしなく視線を斜め上に彷徨わせていた。
その様子でKaiseiの案だと悟ったのだろう、Ryushinは意地悪く笑いをこらえている。
「[明けない夜の止まない雨]って何か『俺らカッコイイでしょ感』があざといですよぉ」
辛辣な美也子の評にLeiyaは脚を組んだまま微動だにしていないが、耳は紅に染まっていた。
仕切り屋なのに赤面症なんだね。
「[ダイナマイト・リスキー・キャピタル]……?うーん、これは圧倒的センス不足ですね」
「あ!?」
美也子の酷評に思わず声を出すRyushin。やっぱりあいつの案か。
他のメンバーも鼻で笑っている。
ちなみに、美也子がRyushinの案を腐す前に一瞬の間があった。
美也子も気づいたんだね。
[キャピタル]は『都』という意味がある。[ダイナマイト・リスキー]は[ダイスキ]と略せる。
つまり、「大好き美也子」というメッセージになるわけだ。
それで美也子は冷たく突っぱねるような言い方をしたんだろう。
「この中だったら[ニャンニャンズ]がいいんじゃないですか?ハードル低くて」
「私もそう思う」と智帆が同調する。
女子たちの意見に明らかに不満そうな表情を作るメンバー三人。
決を採ろうとなる前に、
「ところで美也子は観に来てくれるんでしょ?」
僕は今日の自分の仕事を遂行した。
「残念。悪いけど観に行けなーい」
明るく答える美也子。
智帆が補足する。
「美也子の彼氏の学校もうちと同じ日に文化祭だからそっち行くんだって。羨ましいこと」
智帆はさらに続けた。
「で、彼氏もKing Gnuのコピーパンドやるんですよ。そりゃあそっち行きますよね」
智帆に対する三人の怒気が教室中に蔓延していくのが肉眼で見えた気がした。
「何だ、観に来られないのか」
実は僕は全部知ってたんだけどね。
でも美也子への想いを公言していない彼らに僕の口から言うのも不自然だから、本人の口から言ってもらおうと思って。
そうすればこのエアコピーバンドに関する不毛な会合をすぐに終わらせるでしょ。
そう思って段取りをつけてたんだ。
僕の「決まった」という言葉が教室前にスタンバっていた二人への合図だった。
「じゃあマサシ君まだ時間かかりそうだから今日は帰るね。バンド頑張って〜」
美也子は指をピロピロと動かして智帆と共に教室を出て行った。
僕以外の三人は大道芸人の銅像芸かと思うくらい動かなかったので、僕が口火を切った。
「何かジャマが入っちゃったけど、バンド名決めようか」
さて、三人にはバンドをやる意味がなくなったわけだけどどう出るかな。
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