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6.脱退連鎖
まず反応したのはLeiyaだった。
「実はよ……色々あって、俺今バンドやれるような精神状態じゃないんだわ」
急に。
ついさっきまでリーダー面で仕切ってた姿を思い出すと笑える。
「何のために生きてるんだろうとかそんなんばっかり考えちまってよ。だからすごく言いにくいんだけどバンド抜けさせてもらいたい」
多数決に参加してもらうか?とまで言ってたクセに勘弁してよ、この振り幅芸。
笑いを堪える顔が心底心配している顔に見えることを祈ってる。
「Leiyaもか」
なぜかわざとらしく声をかすれさせてRyushinがしゃべり出した。
「実は俺も、お前らがバンドやるって張り切ってるから今の今まで言えないでいたんだけど……」
一番張り切ってたのは自分でしょうが。
「俺、かなり悪性の声帯ポリープなんだよね」
よく真顔でそのレベルの嘘つけるよ。
僕は強く唇を噛んで吹き出すのを何とか堪える。
「今まで普通の声だったじゃねえか」
嘲笑うようにKaiseiが呟いた。
それは聞こえなかったフリをしてRyushinが言った。
「わりいけど俺もバンド抜けさせてくれ」
これで二人抜けたぞ。
「でもこんな偶然あるんだな。実は俺もなんだ」
最後はKaiseiだ。
「何か俺、深刻な『演奏アレルギー』らしくて」
面白いことを言い出したぞ。
「何だそれ」とLeiya。
「そ、その……演奏すると、こ、呼吸困難になる、ま、まあ奇病だな」
しどろもどろのお手本のような返しをするKaisei。
美也子が来た時もそうだけど、イレギュラーの事態だとこいつ全然クールじゃないんじゃん。
「俺たちエアバンドじゃん。演奏しないけど?」
Leiyaが的確に突く。
「いや、そういう、あの……」
と返しに窮したKaiseiだったが、急に勝利を確信したかのような目つきになって、
「最後まで話を聞けよ」
と答えた。
何か良い切り返しが浮かんだようだ。
「俺と同じそういう奇病に苦しむ人を助けたいから、俺は医者になることにした。だからバンドをやってるヒマがなくなったってことだよ」
RyushinもLeiyaも色々突っ込みたかっただろうけど自分もやめるからか、それ以上は突っ込まず「頑張って」とニヤニヤを抑えながら言うだけだった。
「医者になったらお前のポリープ治してやるよ」
Kaiseiの軽口にRyushinは、
「待てるか!」
とキレイに返したが、肝心の声帯ポリープの設定を忘れて普通の声だった。
そんなこんなで僕の思惑通りバンドは解散となった。
三人が同時に失恋する瞬間と、意味がなくなったバンドの脱退理由のでっち上げであたふたするサマを見れた。
こんなもんで僕をイジめた罪は帳消しにならないけど、かなりスカッとした。
一人になってから僕は堪えてた笑いをまとめて放出した。10分くらい笑い続けたかもしれない。
笑い疲れて落ち着いてから、僕は恋人にお礼の電話をした。
「解散できたよ。ありがとう」
電話の向こうから、
「マサキュンの役に立ててテラゲロ☆ウレピッピー❤」
とハシャぐ智帆の声が聞こえる。
お前らが内心で邪険にした智帆は本当はこんなにかわいらしいんだぞ。
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