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最恐の初対面
***
『先ほど入ったニュースです』
ニュースキャスターの声が、低くなったのがわかった。
食堂にいる社員の視線が、一斉にテレビへと集まる。
『殺害事件の容疑者として、現在指名手配中の八代襟人(25)が、昨晩○○区にいたことが、防犯カメラの映像でわかりました』
「やだ、○○区って、ここと近いじゃない」
怖いわぁ、と年配の女性社員が、頬を押さえる。
テレビでは、防犯カメラの映像が流れている。映像は荒く、わかりづらかったが、確かに何度も報道番組で見た顔が、そこに映っていた。
メディアは連日、八代襟人の話題で持ちきりだ。おそらく殺人犯であろう人物が、未だ行方不明という事実に、世間は怯えている。
私も例外ではなく、○○区の名前が出た時は、ドキッとした。
○○区は、私が勤めているこの会社に近い。自宅も徒歩通勤できる距離にあるので、帰宅が少し怖い。
『不審な人物を見たら、通報をお願いします』
ニュースキャスターはそう締めくくり、『では次のニュースです』と別の話題に移行していく。
『パンダの赤ちゃんが、生まれました!』
先ほどまでとは、打って変わった明るい声で、微笑ましいニュースが報じられる。
しかし食堂には、未だにざわざわした雰囲気が漂っていた。
「嫌ね、まだこの辺にいるかもしれないわよ」
「早く捕まらないかしら」
「もし帰り道に出会っちゃったら、どうする?」
お局様たちのグループが、小さく悲鳴をあげる。
私も、早く逮捕されますように、とささやかに祈って、食堂を離れた。
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