最恐の初対面

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   勤務終わりになり、速やかに帰宅しようとしたところを、厄介な奴に声をかけられる。  「(ゆう)ちゃん! 物騒なニュースがあったのに一人で歩いて帰るのは危険だよ。一緒に帰ろう?」  こちらが嫌がるのも気にせずに、いつもしつこいアプローチをしてくる係長。思わずため息が出そうになるのを、必死にこらえる。  「心配していただきありがとうございます。ですが、遠慮させていただきます。係長もお疲れさまでした」  やや早口に告げて、その場を離れる。  後ろから、機嫌の悪そうな声が聞こえてきた。  「いっつも最低限の付き合いしかしなくてさ、ノリ悪いよ! そんなんじゃ彼氏できないよ!」  聞こえなかったふりをして、前だけを見てスタスタ歩く。  会社辞めたいな。  今週何度目かの、思いを抱く。  中学の頃から憧れていて、「絶対にあそこに就職する!」と友人たちにも公言していた企業だったけれど、実際に勤務してみると、輝かしいイメージは粉々に砕かれた。  あんな上司もいるし。何が『彼氏できないよ!』だ。  ノリを悪くすれば、異性が寄ってこないなら、願ったり叶ったりだ。  私は、一生誰とも恋愛しない。  それは、何年も前から変わらない、私の信念だった。  家に向かって歩きながら考える。本当にこの辺に八代襟人がいるとして、遭遇する確率なんてどのくらいだろう、と。  会う確率の方が断然低い指名手配犯より、嫌いな上司と二人きりという状況を全力で避けたい。  そう思ったものの、明るい通りから一転、静まり返った住宅街に入ったところで、やはり少し怖くなる。  でも、ここを通らなければ、帰れないのだから仕方ない。  早く家に着けるように早めに歩く。  そんなことをせずに、いつものペースで歩いていれば、良かったのかもしれない。  あと数分で自宅のアパートに着くところで、“それ”は起こった。  横の路地からスッと人影が現れたと思った瞬間には、私の脇腹に今まで感じたことのないレベルの痛みが与えられていた。
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