最恐の初対面

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 「はぁっ……うぅ……」  立っていられなくなり、頼りなくコンクリートの地面に座り込む。痛む箇所に目をやると真っ白なブラウスの腹回りが赤く染まっていた。  刺された。理解した途端に恐怖が心を支配した。  逃げなきゃ、と思うのに体が言うことを聞いてくれない。――立てない。  動けずにいると、私を刺した犯人が正面にしゃがみこんだ。  苦しみの中、正面の人物と目が合い――唖然とした。  こんなことがあるのか。  まさかの確率で出会ってしまった。  目の前にいるのは八代襟人だった。今世間を騒がしている男。ニュースで見た顔と至近距離で見つめ合っている。  八代は、感情の読み取れない能面のような表情を張り付けていた。その得体の知れなさに、背筋が凍る。  八代は数秒ほどその状態でいたが、やがて立ち上がり、元来た方向へ去っていった。  私の方はというと、まるで体が動かない。叫んで助けを呼びたいのだが、口からはか細いうめき声しか出てこなかった。  もう目を開けているのさえ辛くなり、そっと瞼を閉じると、意識が急速に遠のいていった。  嫌だ! 死にたくない。しかし頭の中ではこれまでの人生の歩みが高速で流れていく。  走馬灯だ。死の間際に見るというアレ。  走馬灯が、一番楽しかった高校時代に差し掛かる。あの頃は良かったな――。  ああ、高校生に戻りたい。そして――あの子ともう一度、青春を過ごしたい……。  走馬灯でもいい。どうか……どうか、あの頃に帰らせて。私のこんな人生を、やり直させて。  瞼の裏浮かび上がる幻に強く願った時、ふっと身体が軽くなった。
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