最恐の初対面

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 ならば私はこの時代からやり直して、あのうざい上司がいる会社に入ることをやめよう。  そしてもっと明るい通りのアパートに住もう。八代のような犯罪者に出くわさないように。  他にもやり直したいことはある。  幸の死を回避しなければ。絶対に転落事故を防ぐ。  幸が、学校の4階から落ちて死んだあの事故を。  そうだ。学校に休みの連絡を入れなくては。スカートのポケットに携帯が入っていたので、登録してあった学校の番号へかける。  「すいません1年4組の若葉です。体調が悪いので休みます」  「あら、若葉さんも? ちょっと前に薄井さんからも休みますってきたのよ」  電話に出たのは私と幸のクラスの担任だった。  「熱中症かしら? 突然暑くなったものねぇ。2人ともお大事にね」  「はい」  通話を切って、ふと思い出す。  高1の夏休みに入る前に、幸が腕に包帯を巻いて登校してきたことがあった。  「今日お(ねえ)に、宅配来るから受け取って、って頼まれたの。……だからね今日学校行けないの。ごめんね悠ちゃん」  幸には姉がいるらしい。あまり家にいないようで、私が見たことは一度もない。  いつも通り幸の家に迎えに来て、一緒に登校しようと思うと、幸にそう言われた。私に連絡しなきゃと思ったときに、ちょうど迎えに来たみたいだった。  その翌日だった。  迎えに来た幸の左腕に、包帯が巻かれていたのは。  「階段を降りてるときにすべっちゃって……でもそんなにひどくないし、他に怪我はしてないから大丈夫だよ」   本当に軽傷のようだった。骨折もしていないようだし、特に不自由そうにもしていなかったので、私も一通り心配した後は、すぐに日常感覚に戻っていった。
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