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幸に、『今日は階段に気をつけて』と忠告しておこう。
ピンポーン。
インターホンの音が家に響いた。
「はーい」
リビングから幸の返事と、部屋から出ていく音が聞こえてきた。宅配便が来たのだろう。
私は、自分がどのような高校生だっただろうと、記憶を掘り起こす。
学校では、やはり幸と行動を共にすることが多かったが、別に他のクラスメイトと仲が良くなかったわけでもない。
服装検査の時期に、廊下で自分の番が来るのを待っているときにも、出席番号の近い子とお喋りしていたし、体育のグループ決めもいつもすんなり決まっていた。
特別人気があったわけでもないが、嫌われることもなかったように思う。
嫌われることが多かったのは幸だった。
肩まで伸ばしたツヤツヤの黒髪。真っ黒な髪でより白く見える、ニキビとは無縁そうな綺麗な肌。ぱっちりした二重。
幸は、間違いなく学校で一番可愛かった。
それゆえに嫉妬の目で見られることもあった。
幸は人見知りで、必要最低限しかクラスメイトと関わろうとしなかった。そうして女子たちの中には陰で、
「なんか性格悪そう」
「可愛い子とか性格いいわけないじゃん」
などと、一度も話したことがないのに悪し様に言う輩がいた。
幸もそれに気付いていた。私は、「辛いと思ったらいつでも話して」と伝えたけれど、幸はこう言った。
「私ね、中学のときが酷すぎたから今はわりと満足してるの」
幸とは高校に入ってから知り合ったので、私はそれ以前のことを知らない。
「だから一部の人が私のいない場所で陰口言ってるくらいで、平和に過ごせるならすごくいいと思ってるよ」
幸が安心したようにはにかんだ。
幸がそう言うなら、私が口出しする必要はないと結論付けて、話は終わった。
その話をしたのは、私たちが知り合ってから数週間ほどのことだ。
それがきっかけ――なのかはわからないが、それから幸とは、さらに仲良くなっていった。
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