64人が本棚に入れています
本棚に追加
「イヤッーー!」
突然聞こえてきた悲鳴に、私の意識は現実へと戻される。
幸の叫びの直後に、何かが割れるような音がして、これはただ事ではない、と血相を変え、部屋から飛び出す。
「幸! 大丈夫?! 何が……」
あったの、と続けようとして言葉を失う。
玄関は、惨憺たる有り様だった。
飾ってあった観葉植物が倒れて、きれいに掃除されていたのに、土だらけになっている。
土に混ざって白い破片が見えた。靴入れの上にあった花瓶だった。それと共に赤いシミもポツポツと――。
慌てて幸を見る。
幸は座り込み、左腕を押さえていた。押さえている箇所から血が滴り落ちている。
そして開け放たれている玄関扉をじっと見つめていた。
どうやら呆然としているらしい。私が来たことにも気付いていない。
幸に駆け寄って、目線が合うようにしゃがむ。
「幸!」
私が大声で呼びかけると、それまで心ここにあらずといった様子だった幸が、
「あ、うん」
と返事して、私を見上げてきた。
「大丈夫? 何があったの? いやそれよりも腕! 救急車呼んで――」
「待って悠ちゃん、そこまでじゃないから。病院は後で自分で行けるよ。それより誰か呼んで来なくちゃ……。エリちゃんが危ないかも」
幸が立ち上がろうとする。まだ血が垂れているというのに。
私は慌てて座らせる。
「まだ動いちゃダメ! エリちゃんって誰なの? 人なら私が――」
「あいつは逃げてった。もう大丈夫だ」
頭上から低く落ち着いた声が聞こえた。
私は、声の主を見上げる。
最初のコメントを投稿しよう!