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「なんだクソガキ。邪魔だ。どけ。」 …喋った。喋る魔物はただでさえ少ないレベルの高い魔獣の中でも、さらに全体の1%もいないと聞いたことがある。 出会ったことなんてなかったから喋る魔物なんて迷信と思っていたのに。 というか、なんでこいつは私のこと攻撃してこないんだ? 魔物は基本闘争本能がむき出しで出会ったら攻撃してくることが当たり前であるはずなのに。 そもそもこいつは何の魔物だ? 驚きすぎてポカンとしていると、相手は私には興味がないというように踵を返した…かのように思えた。 けれど、魔物は再び私の方にこちらを振り返ってきた。 「…お前、なんでこんなところに一人でいる。」 「…迷子。」 「親は。」 「私のこと捨てた。」 「…。」 いきなり話しかけてきたかと思えばいきなり黙り込まれた。今の質問の意図は何だ? 訝し気に見ていると、魔物は面倒くさそうに再び私に話しかけてきた。 「お前、俺の家に来るか。」 「…は…?」 「だから、」 「いや、聞き取れてるけど。なんでいきなり会った奴のこと助けようとするの。」 「妙に大人っぽいガキだな。…別に理由なんてねぇよ。ただの気まぐれだ。」 そんなわけあるかと心の中で突っ込むが口には出さなかった。 どういう魂胆だろう。 もしかしてぶくぶく太らせて最後にバクっと丸かじりって感じだろうか。 「その様子だと俺が人間じゃねぇってわかってるみてぇだな。はぁ、面倒くせ。別にすぐに取って食いはしねぇよ、ただ、気が変わったら分かんねぇけどな。で、どうするんだ。来るのか、来ないのか。来るなら衣食住は保障する。」 私は思っていることが顔に出やすいらしい。声に出してない質問に魔物が答えた。 面倒くさいならそんなこと提案しなければいいのに、意味が分からない。 それに普通の子どもだったら食べるかもと言われた後について行くという訳がないだろう。人間の言葉が喋れるほど知性高いのに馬鹿なのか。 また私の心の声が顔に出ていたのだろう。 魔物は低い声で「あんまふざけたこと考えていると殺すぞ」と言ってきた。 うーん、馬鹿だ。 そんなこと言われてついて行くわけ…いや。 結局こいつの魂胆は分からないけれど、衣食住を保障してくれるならついて行ってもいいのでは。 このまま家にも帰れず餓死するのも嫌だ。 衣食住が魔物の言う衣食住だと洞窟のねぐらやゲテモノ料理、葉っぱの服とかしか思いつかないけれど。 いやでも服は人間のらしき物を着ているから大丈夫な気もする。 まぁ、何もないよりましなのでは。 何より、こいつは魔物で人間じゃない。襲われる心配さえ除けば、ストレスを感じることなく生活できるのではないだろうか。 と、ここまで考えるのにざっと5秒。 相手は待つことが嫌いなのか、既にイライラしていたので時間をかけないよう脳みそをフル回転させた。 「じゃあ、お願いします」 頃合いをみて出ていけば問題ないだろう。 私の返事をやっとかという風に聞いた後、今度こそ踵を返した。 顎で方向を示し、ついてこいと言ってくる。 私は急いで魔物後ろをついて行った。 そのまま無言で歩くこと1時間、子供の歩幅を気にするそぶりもなくさっさと歩く魔物の後ろを、へとへとになりながらも付いて行った先に見えたのは、一つの町だった。 建物の明かりに照らされてキラキラしている。 あの森にすむんじゃないの? もしかしてこのまま人里に降りて何か物色するつもりか…? 「おい、早くついてこい。置いてくぞ。」 考え込んでいるといつの間にか魔物との距離が広がっていた。 慌てて再び後ろを必死について行くと、街の明かりからは少し離れた場所に着いた。こじんまりとした、けれど立派なレンガブロックの家。 もしかして…これが、こいつの家…? 「え、家って洞窟じゃ…。」 「普通はな。でも俺は人に紛れてここに住んでる。」 「ふーん…。」 魔物がこんな所に住んでるのは意外すぎた。 けれど、これなら衣食も期待できる。 良かった、いま迄よりはましな生活が出来そうだ。 鍵を開けて進む魔物に続いて私も中へと入る。 中は、綺麗に片付けられていて、必要最低限のものしか置いていないといった殺風景なものだった。 何も言われないことをいいことに、家の中をぐるぐる歩き回る。 「別にこの部屋なら好きに使っていい。けど、二階の右手にある部屋には入るなよ。絶対に。」 念を押されすぎて気になるけれど、素直にうなずく。 2階には2部屋あるらしく、左の部屋になら入っていいという事なので、さっそく入ってみることにする。 そこは暫く使われていなかったのか、埃っぽさが少しあった。 物置きみたいなそこには、小道具や書籍が本棚や床に乱雑に置いてあった。 ふと部屋の隅に目を向けると、何か大きなものが置いてあるのに気が付く。 そっと近づいて見てみると、それは私よりも小さな女の子だった。 透き通った水色の髪に思わず目が行く。 私が近づいてみても気づく素振りのないその子にそっと触ってみると、その肌は冷たく、脈を確認してみたけれどやはり動いていなかった。 やっぱりあいつ人を食べてるんだ。 この子は食料として貯蓄されているに違いない。 親がいない子供をこうやって連れてきては食料にしているんだ。 私もいずれはこうなるのでは…。 来るべきではなかった。敵地に一人丸腰でやってくるべきではなかった。 いまならまだ間に合う。逃げよう。 目の前にあった窓に足をかけ、下に植木があるから何とか飛び降りられるだろうと決心したとき、私の服が何かにクイっと引っ張られた感覚がした。 ビクっとして見やると、そこには先程の女の子が髪と同じ綺麗な水色の目で私のことを見つめてきていた。 「ひっ。」 え…この子死んでなかった?なんで動いて…。 驚きのあまり動けないでいると、女の子の口が開いた。 「おねぇちゃん。」 ドアの前では、あの魔物が目を見開いて驚いたような顔をしていた。
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