17人が本棚に入れています
本棚に追加
あれは娘が小学2年の時だった。娘は友達と一緒に近所のブドウ畑に入り込みブドウを食べてしまった。悪気があったわけではない。遊んで喉が渇いたので目の前にあった果物を食べた、それだけの事だった。しかしブドウ畑の持ち主は怒り心頭。私と娘、そして娘の友達親子の4人で謝りに行った。散々怒鳴りつけられ小言や嫌味を言われた。しかし悪いのはこちら。平身低頭、とにかく謝り続け、ブドウの代金を支払って帰ってきた。そのイライラもあった私は娘を厳しく叱った。
「これは泥坊だよ。大人だったら警察に捕まってたんだからね。スーパーで万引きしたのと一緒だからね。あなたのせいでお母さんまで怒られちゃったじゃないの」
娘は顔を引きつらせていた。軽い気持ちでしたことがこんな大事になるなんて思ってもいなかったのだろう。
「……ごめんなさい……」
「ごめんなさいって言っても許される事と許されない事があるんだからね!」
「……ごめんなさい……」
娘の目から大粒の涙がポロポロとこぼれてきた。
「……ゆるしてくれないの?」
涙をたたえた大きな目で許しを請う姿に思わず許しそうになってしまった。しかしここで許したら同じ誤ちを繰り返してしまうだろう。謝れば許されるなんて甘い考えの人間になってしまう。私は心を鬼にした。
「ゆるさない」
その時の娘の顔は今でもはっきりと覚えている。さすがの鬼の心も動かすほどの絶望的な顔。
「ゆるさない、ゆるさないけど……大好き!」
私は娘を抱きしめた。2人で抱き合って大声で泣いた。この先娘が犯罪を犯したり非道な事をしたとしても、許せないほどの事をしてしまったとしても、私が娘を大好きだということは生涯変わらない。世間からなんと言われようと私は娘が大好きだ。私の思いは娘に伝わっただろうか。
〈終〉
最初のコメントを投稿しよう!