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テレビなんて茶番だ。ドキュメンタリーなんていってもシナリオがあるに決まってる。分かっているはずなのに溢れ出る涙を止めることはできなかった。
「母ちゃん元気だったか?」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「母ちゃんの孫だよ。抱いてやってくれよ」
「ああ……お前の赤ちゃんの頃にそっくり」
幼い頃に生き別れになった母親に会いたくてテレビ局に依頼をし、今夜感動の再会を果たす。全国のお茶の間に感動の嵐が吹き荒れていることだろう。
いつか自分の所にもテレビ局から連絡が来るかもしれない。淡い期待を抱きつつ待ち続けて早20年。しかし何の音沙汰もない。やっぱりあの番組は嘘なんだ、ヤラセなんだ。そういって自分を納得させた。娘が自分に会いたくないなんて、そんな事あるわけない、と。
ひとり暮らしには丁度良い小さなアパートだった。お湯を沸かすのが精一杯の小さなキッチン。もう何年もちゃんとした料理なんて作っていない。時々上下左右の部屋から聞こえてくる若者の笑い声に娘を思い出す。いや、一瞬だって忘れた事はない。でも思い出すまいと重たい蓋をして生きてきた。
思い出の中の娘はまだ小さいまま。展覧会で一等を取ったと得意げに賞状を見せてくれた小学生のままだ。あの笑顔は今も輝いているのだろうか。私のせいで笑えなくなっていたらどうしよう。悔やんでも悔やみきれない。
気付くと娘は私が娘を産んだ年になっている。あの子は結婚したのだろうか。子供はいるのだろうか。パート先のスーパーで子供連れのお母さんを見るとそんな事ばかり考えてしまう。思わず言葉を詰まらせ涙ぐむ。変な店員だと思われただろう。
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