ネメシス

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ネメシス

 一人の男があった。男は極々平凡なサラリーマン、大学時代に知り合った妻と小学生の娘を儲け幸せの絶頂にあった。今日は娘の誕生日、男は仕事帰りに苺のホールケーキを購入し娘の誕生日パーティーを楽しみにしていた。 「ただいまー」 男は帰宅するも、家の中はシーンと静まり返っていた。 どうしたのだろうか。もしかして、俺待ちで静かに待っているのかな? 男は誕生日パーティーが行われるリビングへと向かった。 リビングには誕生日の飾り付けがされていた。壁にはHappy Birthdayプレートが架けられ、色とりどりの風船がリビング中に浮き、色とりどりの紙テープがリビング中に吊り下げられていた。 「おう、上手く飾り付けしたじゃないか」 男はリビングの飾り付けに対してお褒めの言葉を述べた。しかし、リビングには誰もいない。 「おいおい? サプライズか? 今日の主役は俺じゃないよー?」 妻と娘はどこかに隠れて「ばぁ!」と、俺を驚かしにかかるのだろうか? 茶目っ気があるじゃないか。男は笑った。 男は買ってきたホールケーキをテーブルの上に置くと、違和感に気がついた。誕生日を祝うための食事が何一つ乗せられていないのだ。台所にも何の準備もされていない。 冷蔵庫を開けてみれば、オードブル盛り合わせの皿とチキンが鎮座している。 「おいおい、レンチン前かよ」 変だなあ、帰宅時間はキッチリ知らせていたつもりなんだけどな。男は仕方なくオードブルとチキンを冷蔵庫から出し、レンジで温める準備を行うことにした。 ドスっ…… 隣の和室より物音が聞こえてきた。和室も何か飾り付けをしているのだろうか。 男はそれを手伝うために和室に行くことにした。 「おう。ケーキ買ってきたぞー、早く温め……」 和室は地獄と化していた。その中央には男の妻と娘が折り重なるように倒れていた。物音の正体は娘の上に乗っていた妻が落ちた音であった…… 男は妻を抱き起こした。息はない…… その下に倒れている娘も息はない。 男は妻と娘を失い、幸せの絶頂から地獄へと一気に叩き落とされたのだった……
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