実行委員長の叫び

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実行委員長の叫び

「うちで、実行委員長をやってほしいってさ」  夕飯どき、父に報告する。 「やはりな。  だから、お前を行かせたのだ」 「で、俺がいったら、スルーできると思ったのかい」 「やっぱり、だめかぁ」  父は、頭をかきむしった。 「そういえば、今年の夏祭り、小牧さんが盆踊りの指導をするんだって。  由佳ちゃんにも、やらせるって言ってたわよ」  母が、横目で洋真の顔をうかがうようにした。  幼なじみの小牧 由佳(こまき ゆか)とは、中学校まで一緒だった。  高校が別々になってから、ときどき顔を合わせる程度になってしまった。 「ねえ。  由佳ちゃんと一緒に盆踊りよ」  さらに、母が迫ってきた。 「いや。  それは」  内心、期待感が膨らんでいた洋真は、どう反応すればいいかわからなかった。  内気で、女の子と話すことなど、あまりない自分が、唯一幼い頃から一緒に遊んだのが由佳ちゃんだった。  17歳になった彼女は、まぶしく輝いてみえる。  最近は、あいさつする程度で、何を話したらいいのか、わからなくなっていた。 「きれいな浴衣で、くるかもね」  明らかに、年頃の男女を刺激したい感、まるだしである。  多分、井戸端会議で、話しているのだろう。 「ねえ。  洋真が、実行委員長になって、カッコイイところを見せたら、女の子はイチコロよ」 「じゃあ、手伝ってよね」  顔がニヤけてくるのを、押さえきれず、淡い期待を抱いて、やってみることにした。  翌週も、寄り合いにでて渡苅さんに、 「ぼくがやってみては、と両親に言われました。  差しつかえなければ」  遠慮がちに、話してみたら、満場一致で、 「おお。  そうか。  やってくれるか」 「いいね。  若い人にやってもらいたいよ」  と、熱気が部屋を吹き荒れた。 「じゃあ、段取り考えよか」  洋真は、さっそく必要な物を集めた。  かき氷の機械、神輿(みこし)、ポン菓子の機械、金魚すくいのポイなどは、近所の工場と、商店街で集めた。  そして、協賛金集めである。  渡苅さんが作ってくれた、リストを元に、分担した。  お返しのお酒が入った、一升瓶をもって工場や飲食店をまわる。  「北富士見町夏祭り」と書いた看板と、協賛金をいただいた方の名前と金額を書いていく。  看板は、とび職の山内さんが、あっという間に組み立てた。  公園に(やぐら)提灯(ちょうちん)の電飾、本部のテントを設置する。  やることは、山ほどあった。  子ども会に、飾りの花を作ってもらう。  そのとき、 「洋ちゃん」  と声をかけられた。  由佳ちゃんだった。 「夏祭り実行委員長なんだってね。  しばらくみないうちに、立派になったじゃん」  淡いピンクのブラウスは、ハシゴレースとピンタックで、ひらひらとめまいがするような、キラメキを放つ。  紺パンツでコントラストをつけ、まるで夏に桜が咲いたように、かわいく着こなしていた。 「ゆ、由佳ちゃん。  大人っぽくなったね」  まぶしい輝きに、目がくらむようだった。 「うふふ。  お祭りの準備なのに、変かなと思って」 「なに言ってんだよ。  キレイすぎて、ビックリしたよ」  興奮のあまり、声が大きくなった。  彼女は、少し恥ずかしそうだったけど、嬉しそうに笑った。  小学生たちが帰ると、後片付けをする。  おばさんたちの目を盗んで、SNSと、電話番号を交換する。 「ねえ。  今度、ゆっくり話したいね」
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