盆踊り

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盆踊り

 盆踊りの練習会を、婦人会が中心になって開いた。  当然、実行委員長も顔をだす。  由佳ちゃんと、お母さんが、振りつけをやってみせた。  今日は、動きやすいトレーナーと、トレパンだった。  洋真は、はっぴを着てお祭り感を、かもしだした。 「アツシのドンドコ節か。  炭鉱夫の動きだったね」  由佳ちゃんに近づいて、話しかけた。  するとお母さんが、 「あら、立派な好青年になっちゃって。  実行委員長さん」 「はは。  盆踊り、楽しみにしてますよ」  すると、顔を寄せてきて、 「由佳もね。  あれで、盆踊りのことで、頭がいっぱいみたいよ。  リードしてあげてね」  耳打ちをするように言った。  由佳ちゃんと、洋真が真ん中で、模範をみせるように促して、みんなは大きな円を作った。 「うん。  若者がやるのと、ジジババがやるのでは、違うねぇ」 「絵になるよなぁ」 「お似合いだよ。  ご両人」  目を閉じると、提灯の明かりの下で、浴衣を着て踊る2人がいた。  2人は、息がぴったりだった。  いつまでも踊っていたい。  心から思った。  夏祭り当日。  朝6時に放送をかける。 「おはようございます。  本日は夏祭り納涼大会にふさわしい、快晴になりました。  どうぞよろしくお願いいたします」  すぐに、出店の準備を確認し、神輿を組み立てた。  お神酒(みき)で清め、2礼2拍手で、祭り開始を宣言する。 「では。  今日一日、よろしくお願いいたします」  深々と頭を下げた。  由佳も朝から、手伝ってくれることになっていた。 「ねえ。  カッコイイよ。  板についてるね」  由佳に言われると、暑さも吹き飛んだ。  あとは、各々役割を果たせばいい。  実行委員長は、詰め所になったコミュニティセンターと、外の本部を行ったり来たりして、お客さんにあいさつするくらいである。  由佳は片時も離れずに、そばにいた。 「けっこう暇なのね」 「ああ。  始まっちゃえば、終わったようなものだよ」  中野食堂の、おじさんがやってきた。 「おお。  屋志さんとこの。  いやあ。  話には聞いたけど、大きくなって、立派になったねぇ」  洋真に話しかけてくる人は、同じようなことを言う。  親戚のおじさん、おばさんみたいなものだ。 「たくさん協賛金をいただきまして。  ありがとうございます」  立ち上がって、丁寧に礼をする。  由佳もそれにならった。 「もう、奥さんみたいじゃないか。  お幸せに」  なんて言われるものだから、照れてしまった。  予定通り、お神輿の巡行、出店が終わり、いったん休憩になった。 「さあ。  忙しくなるぞ」  まずは公園の半分ほど、ゴザを広げた。  夕方は、地区のほとんどの人がくる。  みんなでワイワイ飲食して、近所同士の親睦を深めるのである。  婦人会のおばさんたちが、テキパキと会場を作り上げた。 「あとは、櫓であいさつするくらいだな」  もう一度、放送をかける。 「夜の部を6時から、開催いたします。  万障お繰り合わせの上、ご参加ください」  本部に戻り、振るまわれたスイカを頬張る。  ノンアルコールビールを少し飲むと、櫓に向かった。 「私も一緒に上って、いいかしら」 「うん」  由佳もついてきた。
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