夜陰の灯

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夜陰の灯

 櫓の上は、下から見上げるよりも、すっと高くて華やかだった。 「こんなの、小学生のときカラオケ歌って以来だな」 「うわあ。  テンション上がるわね」  気分は、最高潮になった。  あいさつは、アドリブでいいと言われていた。 「北富士見町のみなさま。  いつもありがとうございます。  ぼくは、小さい頃から、お世話になったからと、実行委員長をお引き受けしました。  地域の活動の中心に入ってみて、わかったことが、たくさんありました。  こうして、みんなで集まってお話することも、地域社会を作り上げるために、大切なことです。  皆さんに支えられて、生きてきたことを実感できました。  ありがとうございます」  会場は、しんと静まりかえっていた。 「あれ。  変なこと言ったかな」 「違うよ。  みんな心を打たれたんだよ」  おじさん、おばさんたちが、ノンアルコールビールを持って押し寄せてきた。 「さあ、屋志くん。  お役目ごくろうさま。  あとは、飲んで遊んで行ってよ」  コップか空になる前に、どんどん注ぎ足された。  枝豆を、たらふく食って、由佳もでき上ってきた。 「ふう。  すごい人気だね」 「ぼくは、幸せだよ。  幸せって、こういうことなんだね。  これから、地域のためにできることを、やっていきたい。  そんな仕事ができたらいいな」 「私も、そう思うわ」  アツシのドンドコ節が、流れ始めた。  浴衣に着替えていた2人は、盆踊りの輪に入っていった。
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