雄津さんの過去

2/2
前へ
/27ページ
次へ
 博物館から七宝神社までは徒歩で十五分ほど。鳥居の前で秀人と待ち合わせしている。部活終わりだからジャージ姿かな。上下ともに真っ青の。  あたしたちは、喫茶スペースで雄津さんの話を聞いたあと、三人連れ立って道を歩いていた。森林に囲まれた、静かな道だ。 「雄津は念願叶って、龍の研究に没頭しているわ。うちの大学は民俗学のメッカと呼ばれていて、民俗学の資料が豊富なの」 「日本各地に行って、地元の人に昔話を聞きに行く授業もあるんだ。さまざまな土地の文化に触れられて、とても勉強になる。いろいろな人と仲良くなれるし、いいことばっかりだよ」 「ほえー」  なんだか大学に行くのは、ショーライのためにガクレキをつけるためにだと思ってた。  だけど、こうやって好きなものを研究して、楽しんでいる人もいるのか。  世界って広いんだな。  そう思うと、自然とお礼を言っていた。 「ありがとうございます」 「ん? お礼を言うのはこちらだよ。貴重なお話を聞かせてもらえて。それも七宝神社の次期神主さんなんだろ。初出典の逸話も採集できるかもしれないし! どれだけ謝礼を払っても気持ちが収まらないよ。」 「あはは、大げさな……」  秀人のお父さんに話を聞ければベストなんだけど、あたしはなぜか避けられているからな……。 「いや本当にありがたいよ。龍の伝説は七宝神社のホームページに載っていなかったんだ。やっぱ、現地に行かないと、分からないことがあるのが、フィールドワークの醍醐味だよなあ」  七宝神社のホームページにも載っていない? あたしは頭の中で何かがひっかかった。  島の大人たちは、どうしたら水鏡島に観光客を呼び込めるか、よくひざを突き合わせて相談している。やしゅろだってそうだ。海を一望できる客室と、心のこもったおもてなし、島の新鮮な食材をふんだんに使ったレシピを売りにして、観光客をゲットしている。その数は少なくはないが、今後のことを考えると、もっと水鏡島のことが有名になれば、観光客はもっと訪れるだろう。  龍の伝説は、観光客の心を掴むのにはうってつけのイベントのはず。七宝神社は龍神祭について秘密にしておきたいのだろうか?  だとしたら、いったいなんのために?  あたしの心の水面に小石が投げ入れられ、波紋が静かに広がっていく。 雄津さんの胸元で、龍のペンダントが鈍く光った。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加