七宝神社⑴

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 龍を信じるか?   幽霊、UFOを信じるのかと同じような質問だ。子どもは実に半分が信じている。あたしも小学生の時は、龍の背に乗って、島全体を空から見下ろすことを夢見ていた。  だが中学生になれば、現実を知る。  いくら夢を見れど、空を見上げていれど、龍はいなかった。SNSが普及し、空も人工衛星が監視している時代に、龍は現れないとなれば、さすがにその実在は信じなくなる。サンタクロースとおんなじだ。  数百年前の人々は、この地で龍が空を舞い、恵の雨をもたらしたと記録している。人々は深く感謝し、龍が棲まう水鏡湖(みずかがみこ)の近くに社を構え、龍を神として崇め奉った。その社が七宝神社のスタートだ。島民からのお布施や寄付で、江戸時代ごろには今の大きな社殿を建てたそうだ。  あたしのおじいちゃんやおばあちゃんの世代までは、龍を信じる信心深い人が多い。今は、名ばかりやその場しのぎとして、神頼みのときに龍神に祈ることが多い。  龍はいない。  その事実を受け止めるまで、この年までかかってしまった。  秀人はどう思っているんだろう。彼は龍を祀る七宝神社の跡継ぎで、まるで龍が存在しているかのように振舞っている。あたしよりも誰よりも現実主義者の彼は、何を思ってあの浅葱色の正装を羽織っているんだろう。  最後尾のあたしから、先頭の秀人の表情はわからない。鳥居から本鳥居までの石段を一列で登っていく。
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