触れたい花火、君の指先

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 夏野とつないでいない手で、窓を開けた。ぐっと空に手を伸ばす。花火に照らされる、私の指先。 「花火、触れそう」 「どういうこと」  夏野が笑う。 「さすがに触れないでしょ」 「触れるよ、たぶん。こんなに近いから」  手を伸ばせば、花火にだって届きそう。隣にいる夏野には、もっと簡単に届く。にぎった指先の体温をたしかめた。すこしだけ、温かくなっている気がした。 「夏休みのどっかでさ、遊びにいこ」 「んー……、俺、金ないよ。バイト代、家に入れてるから。あと昼間はバイトばっかりだし、時間ないかも」 「じゃあお金かからないところで、夜に遊ぶ。夜の方が涼しくていいよ」  夏野はすこし考えてから、わかった、とうなずいた。 「どこ行こうね」 「どこでもいいよ」 「は? なにそれ、適当じゃん」 「やー、ひまりさんと一緒なら、どこ行っても面白そうだからさ。めちゃくちゃなことしそうで」 「ばかにしてるでしょ」 「してないしてない」 「ムカつく」 「えー」  地面が揺れるような、打ち上げ音。色とりどりの光に照らされた、夏野の横顔を盗み見る。  ――あ。  夏野がゆっくり、私を見る。 「なに?」 「……ううん、なんでも」  私は、笑った。  だって、夏野も笑ってたんだ。  とても、きれいに、笑っていたんだ。 「そうだなあ……。まずは海、いこっか」 「ん、いいよ」  手をつないで、ふたりなら、きっと楽しいよ。  だからまた、夏の夜に出かけよう。  今夜一番の大きな花火に、そう約束した。 (了)
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