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私は、うろたえた。
――またダメだったら、どうしよう。また失望させてしまったら、そのときは、今度こそ夏野は死んでしまうんじゃないか。
一瞬で、そんな思いが湧きあがった。
怖い。だって私、一度失敗してる。自信がない。なにも言えない私は、中途半端に開いた口のまま固まった。頷きたいのに、頷くだけの強さがなかった。
夏野はずっと、私を見ていた。花火の音がするなか、ゆっくりと、私の指を離す。
「ごめん、ひまりさん。変なこと言った。忘れて」
いつもと同じ夏野の声とともに、ぬくもりが消えて行く。
ちがう。そうじゃない。
夏野は、今、私に助けてと言っているんだ。ほかのだれでもない、私に――。
私は、夏野に笑っていてほしい。
一緒に笑いたい。
私が、夏野を幸せにしたい。
だれかじゃなくて、私が、夏野のそばにいたい。
「夏野」
私ができることは、多くないかもしれない。
それでも私は、夏野のそばにいたい。
離れていく手をつかむ。
「怖いけど、不安だけど――、私はあきらめたくない。だから夏野も、あきらめないで」
指先に力を込めた。私の指はきっと熱いから、冷え切った夏野の指にこの体温をわけてあげられたらいい。
夏野に伝われ。
「私は、夏野が好き」
熱も想いも、ぜんぶ。ぜんぶ。伝われ。
夏野は、すこしだけ目を丸めた。その顔が花火に照らされる様子を、目をそらさずに見つめる。光が消えるころ、夏野の身体からすっと力が抜けるのがわかった。
そっか、と夏野はうなずいた。
はじめて、泣きそうになっている夏野を見た。
夏野の視線がはずれる。私も、その動きを追って、空を見た。
花火が上がった。
夏野の指は、私の指を握っている。
「ひまりさん」
「うん」
「――ありがと」
それ以外に、言葉はなかった。でも、それでいいと思った。
打ち上げ音。爆ぜて、輝いて、消えていく。
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