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3 有給とは推しのために使う有意義な休暇のことだ
とりあえず次の日は仕事を休んだ。
この世界を何も知らない高瀬くんいきなりを一人にする訳にもいかない。
派遣社員の有給は取るのがややこしくて嫌になるが、元々推しのために働いているのだ。推しのピンチに働いていられるか。
(とりあえず予備の鍵を渡しておこう。幾らかのお金と、あとは……)
向かった先は、野球用品店。高瀬くんも一緒。つまり推しとお出かけなう。
なのだが、普通の人モード(社会人モード)を反映させて乗り切った。
「すげえ! こっちにもマックあるんだ」
「中西がさー、好きなモノは後に食うタイプで。俺がいつも要らねえと勘違いして中西のポテト食うから、めっちゃ怒られるんだよなあ」
街を歩きながら、けたけたと笑う高瀬くん。チームメイトでエースである中西くんのことを話す時の彼は、ことさら楽しそうだ。
隣で相槌を打ちながら、本当は何度も泡をふいて倒れそうになったけれど何とか耐えて、グラブとバットと野球ボールを購入した。
(だって! 練習できなかったら夏の大会に支障をきたすじゃない!)
『高瀬直人! 日本一速いショートになる男です!』
高瀬くんの初台詞。そして夢乃作、高瀬くんの名言ランキングの中に入るセリフだ。
(推しの夢は私の夢。倒れてなどいられない!)
三ヶ月以内に彼を帰すというミッションに気づいてからというものの、少しだけ高瀬くんに耐性がついた。
この辺りが、『普通をこよなく愛する』ものの、決して普通ではない松崎夢乃であった。
「松崎さん、サンキュー!」
三点で十万円近く吹っ飛んだけれど、名前×笑顔×感謝に比べたら安いものだ。むしろ夢乃のハートも吹っ飛ぶ。
「リボ払いで」
夢みたいな二次元の彼と、そこだけは現実の生活。
「大丈夫、金とか」
「なんくるないさあ」
「何で沖縄弁」
陽気な彼がけたけたと笑うから、私服や日用品が必要なことを忘れて、うっかり帰宅してしまった。
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